雪を溶く熱 ――わだかまりは雪のように積もり、雪のように溶けて――

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『雪降ってる! 珍しい!』 『ほんとだ! 静かだから気づかなかった』  雪で盛り上がっているのは、友人のSNSだ。  美冬はカーテンをそっと開け、外を見てみる。外灯に照らされた雪が、静かに降っていた。  東京にもあったのだ。こんな綺麗な雪が。  母が好きだった歌の替え歌を、思わず口ずさむ。  美冬は、生まれも育ちも東京都内。大学は実家から余裕を持って通える距離にあるが、親戚の運営するシェアハウスが存続の危機だと知った両親によって、美冬はこのシェアハウスに放り込まれた。ひとり暮らしに漠然とした憧れがあった美冬にとって、こんな暮らしも悪くなかった。大学までの所要時間は実家からと大差ない。  ただ、引っかかることが、ひとつある。幼馴染みの秋人も入居したことだ。  互いの家族が仲が良く家が近いこともあり、美冬の近況も秋人の近況も昔から筒抜けだった。美冬の親戚の話もすぐに秋人の両親の耳に入ったようで、秋人もシェアハウス暮らしを余儀なくされた。秋人の大学は実家の方が近いらしいが、シェアハウスからは電車の乗り換えをせずに1本で行ける。  美冬は秋人と、ある意味「ひとつ屋根の下」に住んでいる。しかし、ほとんど会わず、会話もない。そろそろ大学を卒業するのに、4年間、この調子だ。  仲の良い家族でさえ、あの「裸エプロン事件」のことは知らなかったらしい。そのせいで、美冬が秋人を無意識的に避けてしまっていることも。  部屋の戸がノックされる。 「美冬、起きてる? 話したいことがあるんだけど」  秋人の声に、美冬は反射的に震えてしまった。何も怖がることはないと自分に言い聞かせると、自分でも驚くほどすぐに落ち着いた。 「寒っ。Tシャツくらい着てくればよかった」  秋人の呟きに、美冬は思わず突っ込む。  あんた、まだ半裸(何も着てないん)かよ。
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