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任務開始
義昭はとりあえず朝食をとることにした。朝食はセルフだからいつものことだ。
そう思って食器棚からお椀を取り出し味噌汁を……つごうとしたが、味噌汁がない。
まさか……
炊飯器を開けると、同様にそこも空っぽだった。
くそ、そういうことか……
義昭は次第に自分の置かれた状況を理解し始める。今からご飯を炊くには時間がかかる。何かないかと回りを見回すと、幸枝がいつも食べている食パンが一枚残っていた。それをトースターに入れる。
卵でも焼くかと冷蔵庫を開けると、中はほぼ空っぽだった。卵も残り2つだ。
目玉焼きを作りながら、こりゃ買い物に行かないとだめだな、と考えていると、何やら焦げたような匂いが漂ってきた。
しまった! パンだ!
トースターを開けると案の定焦げている。慌てて取り出す。
熱っ! お皿お皿……
うん、まあ焦げを少し落とせば食べられなくはないか。
そうこうしているうちに目玉焼きもしっかりすぎるくらい焼けて、少し寂しい朝食が完成した。
義昭はモソモソと一人で食べながら、離婚警報解除の条件に目をやる。
1、素麺を作る(私と同じように)
※調理時間を測ること。
※写真に撮ること。
茹でればいいと思ったが、そうではないかもしれない。幸枝と同じようにということは、付け合わせも作らなければならないだろう。幸枝の素麺には錦糸玉子や胡瓜の千切り、ミョウガや大葉も添えてある。調理時間を測るのは問題ないが、写真とは何だ。手を抜いてないかチェックするためか。いや、いつも出される素麺の観察力を試されているのかもしれない。
義昭はとりあえず買うものを書き出してみることにした。
素麺、めんつゆ……そこまで書いて、ふと、家にあるのでは? と思い立つ。
そこからは宝さがしだ。
キッチンにある扉という扉を全部開け、引き出しも全部引っ張り出す。
義昭はインスタント麺くらいなら作るから、インスタント食品置き場は知っている。それから鍋の入っている戸棚と、醤油などの調味料棚。これが義昭の知っている全てだった。
思えばキッチンは幸枝のテリトリーのようで、こんなにじっくり見るのは初めてだった。別に入ってはいけないと言われているわけでもないのに……
ラップはここにあるのか。わさびはここか……と、いろいろな発見をしつつ、わかめや海苔の入っている乾物コーナーに素麺を発見した。
机に戻った義昭は素麺の文字を二重線で消す。めんつゆは見当たらないから買っておこう。
あとは卵、きゅうり、それから大葉、ミョウガ、これくらいかな?
いや、何かもっと色味があったような……そうか、ミニトマトだ。
義昭は幸枝の作る素麺を思い出しながらメモを完成させ、買い物に出掛けた。
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