3 そのメルセデスには秘密がある

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当然、俺は警部に詰め寄った。が、警部は表情を変えずに応えた。 『あいつは、あの酔っ払いはな、ストーンヒルの身内だ』 ストーンヒル。その名を聞いて俺は黙った。まさかあの酔っ払いがストーンヒル上院議員の身内だというのか。この街に住んでいる者なら子供であろうと知らぬ者はいない男。ダニー・ストーンヒル。故郷であるこの街を愛し、この街の恒例行事には必ず顔を出す。上院議員という立場を鼻にかける事なく、市民と同じ目線に立ち考える。ゆえにこの街の人間からの信頼は厚い。しかし、必ずしも聖人君子という訳ではないという噂もある。あくまで噂、だが。酔っ払いは今夜中に釈放される。あのメルセデスも。そうなったら、あの傷を調べるのは容易ではなくなってしまう。今、しか無い。この署内にメルセデスを保管している今しか。もう一度、俺は警部にメルセデスを調べるように言った。だが答えは変わらない。 『ストーンヒルには手を出すな』だ。 俺は黙って自分のデスクに戻った。時間はどんどん無くなっていく。少女(クレア)が助かる可能性も同時にどんどん無くなっている。このままで良い筈が無い。意を決して立ち上がった俺を見て、チェイニーは『どこに行く』と言った。 『ついてこなくていい』とだけ答えた。 調べなくてはならない。あのメルセデスのトランクにあった傷を。少女(クレア)がどこにいるのか。それを知る手がかりはあのメルセデスしか無いのだから。
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