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王道転校生の初日。
「うわぁ」
一人大きな門の前に立っていたのは162cmという男子高校生にしては小さな体を持つ薄茶色の髪の少年。首が疲れそうなほど彼は上を向いていた。
彼は家庭の事情により、家にいれなくなったため、全寮制の高校に転入することになった。それがここ、創緑学園である。彼の叔父が経営している私立学園であるここが彼の新しい住まい、そして学校としてふさわしいと彼の叔父から提案があったのだ。
その彼のカバンの中にはアフロのかつらと瓶底眼鏡。まるでお楽しみ会の一発芸をするかのようなものが入っていた。
彼はそれを顔を歪めながら眺め、そしてカバンの中に封印した。何か嫌なことでもあるのだろうか。
「うーん。どうしたものかなぁ。このままじゃ入れないしな……」
彼は困ったような顔をして辺りをうろうろする。すると目の前にその巨大な門を優に越える木があった。彼はそれに手をかけ登ろうとするが、結局手を放し、また門の前をうろうろする。
「……君が転入生ですか?」
その門の向こうから美しい男の声が聞こえる。少年がパァっと顔を輝かせ急いで門の方に行く。
「はい! そうです! 門が閉まっていて入れなくて……。開けてもらえますか?」
「いいですよ。少し待っててくださいね」
門の前にいたその人はその場から移動して少年の視界から消える。すると目の前の門がゆっくりと開かれた。
先程までは門で見えにくかったその顔がお互いにはっきりと見ることができ、かつらと眼鏡を持った少年は門を開けてくれた少年の美しい容姿に思わず見惚れてしまった。
「うわっ……お人形さんみたい……」
という声を思わず出してしまうほどに。
「何を言ってるんですか。貴方の方が何倍も綺麗だと思いますけど。早く行きますよ。理事長に早く連れて来いって言われてるんですから」
「あ、ちょっと待ってください! お名前は? お名前は何というんですか?」
転入生は有無も言わせずにさっさと理事長室へと案内しようとする彼を引き留め、名前を聞こうとする。
「……雨宮遥。私はこの創緑学園生徒会副会長、雨宮遥です」
門を開けた少年――遥はにこりと笑顔を浮かべる。
「僕は天宮海音と言います! よろしくお願いします!」
かつらを持つ少年――海音もそれに応じ笑顔を浮かべた。が、遥をまじまじと見つめていくうちにだんだんと眉をひそめていく。
「その笑顔、やめた方がいいですよ。僕は嫌いです。僕の前ではそんな作り笑いしなくていいですよ」
そして、少し不機嫌そうに海音はそう言った。遥の作り笑いが気に入らなかったようだ。まあ、誰でも作り笑いをされたら嫌であろうが。遥はその言葉に驚いたのか目を見開くとそのまま苦笑いを浮かべてこう言った。
「……そんなこと、指摘されるのは貴方が初めてですよ」
遥はじっと海音の方を見つめ、不敵に笑う。そして少しずつ海音に近づいていく。じりじりと距離を詰めてくる遥に対し、それにどう対応したらいいのか、そして少し怖いという海音はゆっくり後ろに下がるが、そこには木があった。海音は追い詰められてしまった。
「……面白い人だ。海音ですね? ……逃がさないので覚悟していてください」
遥はあわあわとしている海音の顎をその綺麗な手で軽くつまみ、自身の方に顔もむける。これが男同士でなければ誰もが認める完璧な胸キュン展開だ。いや。遠めに見て音声を封印すれば女子同士にも見えなくもない。それはそれで一部の人にも受けそうだ。
そのまま遥はだんだんと海音に顔を近づけていき、その赤くきれいな唇がもう少しで触れ合う……というところでガサゴソと海音の真後ろの茂みから鳴る。
そのせいではっとした海音が遥を無理やり押し、自身から引き離す。
「……誰ですか」
「そんなことより早く行きますよ! 案内してください!」
「……そうですね。遅すぎると理事長に怒られてしまいますし。さあ、行きますよ」
遥は先程とは質の違った笑みを浮かべて海音の手を握って引っ張る。
「は? え、ちょっと! 放してください!」
「嫌です。さっさと行きましょう」
海音はその手を振りほどこうとするが、それは叶わず、そのまま理事長室へと連れていかれた。まだ、一般生徒の登校する時間ではなかったということだけが幸いか。
まあ、誰か見ていたようだが。
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