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そして時は戻る。
「――んじゃ、転入生を紹介する。海音、入って来い」
泰司が扉に向かって指示を出す。すると恐る恐る海音が入ってきた。
もう一度言うが、海音は小さい。場合によっては女子高校生より低いのでは、と思われる身長だ。そしてその端正な顔と色素の薄いサラサラな茶色い髪。ここは男子校であるが、まるで女子のような容姿をしている。
そのせいか、その視線は好意的なものばかりである。
しかし、女子らしいと感じるのは一瞬だけで、中に入ってきてシャキッとすると年相応の男子生徒に見える。まあ、見た目は変わるわけがないので女子のようなのだが。
そう、この生徒が先程まで理事長室にいた、いわゆる王道転入生。
この学園は王道BL学園であり、多くの……いや、一部の男子生徒はよくある王道の格好をして現れると思っていたに違いない。
しかし、海音はその王道とはかけ離れた格好をしていた。
そして、その手に提げているカバンの隙間からはもじゃもじゃのかつらと瓶底眼鏡が見える。
「俺の名前は天宮海音。これからよろしくお願いします」
基本この学校は美形はすべて受け入れられる学校だ。
王道学園であるがために。
「チビとか言ったらそいつのことぶっ飛ばしてやるから覚悟しろよ」
冗談というように軽々しくぶっ飛ばすといった海音はそんな風に見られているなど全く知らずに担任に指定された席に着席し、ノートとかを取り出す。
誰もが女子と見間違えるような容姿での海音の口から発せられたのは世間一般にはイケボと称されるような美しい低音でぶっ飛ばすという暴言。教室の生徒はそれに混乱し、何も言葉を発せていなかったのだ。
「ったく。いつまで海音に見とれてやがるんだ。さっさと次の授業の準備しろよ」
担任のその言葉でようやく教室に音が戻る。そして生徒は不思議な転入生のことを気にしながら一時限目の準備をし始める。
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