視認性の齟齬

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「僕らはいつでも正気で、本気で言ってるんだけど」  歪に頬に力が入った。繕う余地が失われつつある。それでも、手で口を隠し、棗と共に義兄を睨んだ。 「お兄さんには、やっぱり見えてはいないんですね」  凍り付いた部屋で、再びの解を歩み出したのは、棗だった。 「だってお兄さんには、何も憑いてないじゃないですか」  棗は義兄を指差す。その周囲に、暗い気配は一つも無い。見えるのは、青ざめた本人の顔だけだった。 「これは僕の予想だけど、もしかして、幽霊って、幽霊に取り憑かれてる人にしか見えないんじゃないかって」  棗の言う『幽霊』を『怪異』に落とし込む。そうして、近々の体感を反芻した。  確信こそ出来ないが、何となく、その考えには理解が及ぶ。  ――――しかし、ならばこそ。 「確認しないといけないことが出来たな」  僕は再び、義兄と正面で対峙した。背筋の美しく伸びた彼を、僕は猫背で仰ぎ見た。 「立花さんと、ちゃんと話せる環境が欲しい。棗と、あともう一人、知り合いと一緒に……小清水は離れていてもらって」 「それは、事件捜査に協力するためなのか」 「そうでもある。決して立花さんを揶揄うわけじゃない」  信用して欲しい、と、僕が付け足すと、義兄は眉間に皺を寄せる。棗の不安そうな表情に目を移した後、数秒の沈黙を捨てた。 「一日待て」  短く、義兄はそう吐いて、部屋を出る。その背を見送って、僕と棗は、互いに顔を見合わせ、息を吐いた。  外はもう、夕刻の赤に染まっていた。
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