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僕はベッドの手すりを握って見せた。少しだけ、僕に合わせて口角を上げた棗が、再び口を開いた。
「なら、悪い人じゃないんだね」
僕は、棗の作り笑いに、短く「あぁ」とだけ一つ返した。
やはり棗は、ある程度は僕に近しい部分がある。自分の武器、身目の良さを知っていて、それで自己の強かさと秘密を、うまく隠している。もしかしたら、僕よりも日比野の方に近いのかもしれない。打算的で、自己中心的で、それを基とした合理的な思考をする人種。
「初めまして、友美さん。青木棗といいます」
「話には聞いているよ。元気そうで良かった」
「さっき、違う刑事のおじさんにも、同じことを言われました。話がしやすくて安心した、とも」
棗の言う『おじさん』の正体に、何となく気付いて、僕は義兄と目を合わせた。
「それで、ハラヤさんの方にも、来てるんじゃないかと思って。あのおじさん」
「来たよ。それでさっき、ひと悶着あった」
「その反応、なんか、予想通りって感じ」
「トータル五分も会話していない奴が僕を語るな」
「うん、ごめん」
何の為にもならないような、中身のない対話。僕は暇を持て余した指を、煙草の草を詰める時のリズムで、机に叩きつけた。
「……茶でも飲んでいくか」
耐えきれず、ベットから足を下ろす。同時に、義兄が棗に椅子を差し出した。流れるように場が整う。
まるで不思議の国のアリスに出てくるような、奇妙な茶会だった。何も知らない刑事と僕が揃って、幼い美少年を持て成そうとしている。
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