視認性の齟齬

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 ティーカップの中でじわじわと赤い靄が滲んでいく。渋みと甘みの混ざった。明るい香りが部屋に浸透する。義兄が、いつの間にか僕に代わって、それぞれにカップを回していく。 「で、あの刑事について、話したいことがあるんだろう。手早く言え。愚痴くらいなら僕も聞ける」  寂しい口を、渋い湯で慰める。手の甲で口元を拭った。棗は目の前でチビチビと湯気を口に含んでいた。彼は品良く唇を潤わせていた。 「これ、馬鹿にしないで欲しいんだけど」  棗はチラリと義兄に目配せして、口を開く。 「あのおじさん、幽霊をたくさん連れて歩いてて……」  幽霊、と言う単語に、義兄が揺れた。僕は口を止めかけた棗に、続けろ、と言った。 「もしかしたらハラヤさんにも見えてるんじゃないかと思ったんだ」 「僕にも見える、と思ったのは、何故だ」 「ハラヤさんにも僕にも、憑いているから。幽霊」  ジッと、真剣に語る棗の顔を見た。その髪の隙間から、棗と同じ年程度の、細い手が這い出る。現実感の薄い、白い指と、頭髪が交差する。血管の浮いた眼球が、僅かに僕を覗き込んだ。 「ハラヤさんの、その女性は誰」  棗は誰かの指と眼を、冷静に拭う。その間にも、彼は真っ直ぐに、大きな瞳で僕を捉えていた。
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