視認性の齟齬

4/5
前へ
/278ページ
次へ
「誰と問われて、答えられる相手じゃない。元々、関わりは無い相手だ」 「そう、そっか」  納得はしていない。棗はそんな顔を浮かべていた。  息を整え、互いの背後、体を舐めるように観察する。それは、見えているものの、整合性を得るための、儀式的な行為だった。 「お前に憑いているのは、あの真昼とかいう奴か」 「うん。喋ってくれることとかからも、そうだろうと思う」 「……ふうん。仲が良くて羨ましい限りだ」 「そういうハラヤさんの人魚さんだって、美人じゃないか」  棗の言葉が吐き出される次の瞬間には、頸筋にひんやりと粘液が垂れる感覚があった。水分が僕の首を絞めつけるようと、必死に縋っていた。 「和泉恭子。最近あっただろう。大学の冷凍庫から、加工された女の上半身と()()()()の一部が見つかった、そんな猟奇事件が」  そいつらしい、と、僕は首を摩った。和泉の指を、ひっそりと手折る。冷気は微熱に変わり、そしてゆっくりと霧散した。 「なんの話をしているんだ、お前達は」  僕と棗の間で、義兄が唸る。 「……見えるものを語っているだけだよ」 「子供を巻き込んでまで揶揄わないでくれ」
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加