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「誰と問われて、答えられる相手じゃない。元々、関わりは無い相手だ」
「そう、そっか」
納得はしていない。棗はそんな顔を浮かべていた。
息を整え、互いの背後、体を舐めるように観察する。それは、見えているものの、整合性を得るための、儀式的な行為だった。
「お前に憑いているのは、あの真昼とかいう奴か」
「うん。喋ってくれることとかからも、そうだろうと思う」
「……ふうん。仲が良くて羨ましい限りだ」
「そういうハラヤさんの人魚さんだって、美人じゃないか」
棗の言葉が吐き出される次の瞬間には、頸筋にひんやりと粘液が垂れる感覚があった。水分が僕の首を絞めつけるようと、必死に縋っていた。
「和泉恭子。最近あっただろう。大学の冷凍庫から、加工された女の上半身とアロワナの一部が見つかった、そんな猟奇事件が」
そいつらしい、と、僕は首を摩った。和泉の指を、ひっそりと手折る。冷気は微熱に変わり、そしてゆっくりと霧散した。
「なんの話をしているんだ、お前達は」
僕と棗の間で、義兄が唸る。
「……見えるものを語っているだけだよ」
「子供を巻き込んでまで揶揄わないでくれ」
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