序章:壊れた冷凍庫で過ごす夏

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 暫くして、そろそろ、小清水に迫るのも、うざったいかなと諦めていたころだった。アルバイトに行くために、早朝に眠い目を擦っている時だった。ふと、台所に立つと、違和感を感じた。  いつも、パカパカと馬鹿の開いた口のように閉まらない冷凍庫の扉が、キッチリと閉まっているのだ。それは、健在だった頃のそれを思い出す。詰まっていた物が取れたか、今迄のことが夢だったように、ピッチリと冷気を逃すまいと、冷凍庫の扉は閉まっている。  僕は喜びを抑えながら、確認のために、扉に手をかけた。しっかりと硬い手応えが、磁石の触感を表している。立ったまま、グッと力を込め、僕は腕を引いた。パカりと扉が開く。瞬間、悪寒にも似た冷気が僕の足元を這った。  おかしい。  何故冷たいんだ。  僕の背筋に何かが走るようにして、伝う汗を逆走する。僕は扉が壊れてから今まで、冷凍庫の電源を入れていない。中身を見ずに、僕は後ろの電源盤を確認する。やはり、電源は入っていない。もう一度、冷凍庫の扉を開けた。  冷気は僕の足の指の間を舐めるように、部屋を満たしていく。薄暗い部屋に、冷凍庫の冷たい光が入り込んでいた。
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