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しかし、そんな状況でも自己肯定感が下がることは全くなかった。人に認められ、必要とされるということを知ってしまったため、己という存在には根拠のない自信があった。就職活動時は大学もそこそこ名門だったため、身の丈に合わない、それこそ海外に子会社を抱えるような超大手企業に受かること前提で片っ端から応募していた。
当たり前だが、結果は全落ちしていた。そして唯一内定をもらった今の会社に就職し、無能であったということを知ってからやっと気づいたのだ。
いや、長年の夢から覚めたのだった。大学三年生の頃から24になるまで約3年間の長い長い、それは幸せな夢の中から引き出されたのだ。
すごいのは自分自身ではなくて、自分の書いた作品だけであったということを。
必要とされているのは『君と夕焼け』なのであって、『秋戸高志』という人間ではないということを。
自分は思い違いをしていたのだった。僕は世界に選ばれた人間なのだと。
それに気づいてから、目標もやる気も全てが吸い取られてしまったような人生になった。楽しいと思うことはあるし、嬉しいと感じることもある。しかし、何かが足りないのだ。手を伸ばしても、掴みたいものが掴めない。
掴みたいと思っても消えていき、それがなんなのかわからないまま虚しさだけが残るような、寂しく不思議な感覚だ。調べてみたら、空虚という言葉が一番しっくりきたような気がした。
色味のない人生。『君と夕焼け』は、僕の人生から色を奪い取ったのだ。
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