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「浮気した恋人を殺してしまったのね、アーロン。優しい小心者のあなたが激昂して過ちを犯してしまうほど愛していたのね、彼女を」
「おま、おまえ俺の名前、それを、クラーラのことをどこでっ!」
腕の振りは密着距離のアーロンの脇を抜け、その加速に柄と鍔に指を絡めて速度を作って背後から剣先を奔らせる。
防具に守られていない頸動脈を切り裂くのに力は要らない。ただ正しく剣先に速度を作って目的の地点を小指の半節ほども通してやればいい。
「女性不信に陥ったあなたは商売女を買って抱くことすら出来ず、こういった機会に女を凌辱するしかなくなってしまった」
一拍遅れて噴き出す鮮血をぼろぼろになった外套で凌ぎ、崩れ落ちた彼の前に膝をつく。
「可哀想なひと、他人を害する生き方なんて辛いだけだったでしょうに」
失血によって一瞬で意識を失った彼の瞼を閉じてやる。もう十も数える頃には事切れるだろう。
見栄っ張りで浮気性の彼女を恋人に選び、浮気に激昂したとはいえ殺してしまい、裁きを恐れて逃げ出し、ひとりでは生きていけず行商を襲っていた彼らに声を掛けて仲間になった。
けれどもその気性から仲間内での立場はいつまでも弱く、またトラウマから女をまったく信じられなくなってしまった。
悲しい生き様だ。全て自分で選んだことだけれども、こんな生き方をしたかったわけじゃないことは、知ってさえいれば誰の目にも明らかだ。
「おやすみなさい、良い夢を」
囁いて立ち上がると、残りの四人は僅かに怯えた目でこちらを見ていた。もう誰も私を笑おうとはしない。
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