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「うるせぇ!!」
ひとり蚊帳の外だった斧を持った男が重苦しい空気を拒絶するように叫んだ。
「誰がどうだったなんて関係ねぇだろ!俺たちには今しかねぇんだよ!」
五人の中でも頭ひとつ大きな体格とそれに相応しい、とはいっても伐採用だが、斧を手に私の前に塞がるように立った。
「どうせクソッタレの山賊稼業だ。俺たちに明日なんかねぇし、だから昨日のことなんざ知らねぇんだよこのクソアマが!」
彼の心を裂くような悲痛な怒鳴り声を、その背中を、後ろの三人が意外そうな顔で見ていた。私は少し微笑む。
「そう、優しいのねダグ」
名前を呼ぶと、ダグは不快そうに顔を歪めた。
「またかよ。てめぇなんで俺たちの名前や素性を知ってやがる」
「私はなにも知らないわ。知っているのはあなたたち自身」
そう、私はなにも知らない。知らなかった。
「わけのわかんねぇこと言ってんじゃねぇこのクソアマがっ!!」
怒鳴りながら斧を横薙ぎに振るう。当たれば私など一撃で肉塊、剣で受けたところで小枝のように圧し折られてしまうだろう。
だから受けない。
一歩下がって斧の刃先を逃れながら同じ方向へ剣を一閃しダグの右手首の腱を切断する。
斧は握力を失った手をすっぽ抜けて私の後ろへ飛んでいった。
「親の顔も知らない、幼い頃から盗みと狩りでどうにか生きて来たあなたにとって、仲間は家族のようなものなのね」
腕を押さえて背を丸めたダグの耳から剣先をそっと挿し入れ、引き抜く。意識の喪失は一瞬、絶命は間もなく。
「だから仲間たちの過去が暴かれて不和の原因になることに耐えられなかった」
誰からも愛されない幼少期を過ごしたダグにとって、この山賊団は幸せな自分の居場所だったに違いない。けれども、その幸せは他人からの略奪の上に成り立っているものだ。
だから、いつかこうして奪われる日がやってくる。
「悲しいわね」
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