山賊狩りの泣き女

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 崩れて動かなくなったダグの瞼を閉じてやり、膝裏を斬られてうずくまっているベンジャミンへ視線を向ける。  私の前に利き手を裂かれたセドリックが立ち塞がった。健気に左手で剣を構えている。 「ベンは殺らせねぇ」  その表情には鬼気迫るものがあった。相打ってでも私を止めるくらいの覚悟を感じる。 「そうね、ベンジャミンは最後の戦場で死にかけたあなたを何度も救ってくれたから、いつか彼のために命を張ろうと決めていた」  私は左手の剣を大きく振りかぶり、振り下ろす。けれども咄嗟に受けようとした彼の剣と打ち合わせることはしない。  刹那に指で剣の向きを垂直に立てて空振らせ、同時に右手の剣で無防備になったセドリックの左腕内側の動脈を切断、振り下ろしていた左手の剣を突き上げて顎の裏から脳まで刺し、頭蓋に触れることなく引き抜く。 「だから私も、出来たらあなたから殺そうと思っていたわ」  意識を破壊されたセドリックが崩れ落ちる。 「あなたもそう願っていたのよね、ベンジャミン?」  最初に足を破壊された素手の男はただ私を見上げるだけだ。 「だってあなたは、国境警備隊長の威力偵察を聞いたとき一番に賛同したのだから」  表情をこわばらせる彼とほどほどの距離を保って瞬きをすると、また頬に涙が流れる。 「でもその前の大戦で家族を殺されたあなたに、帝国を傷付ける機会を見逃せというのは酷な話よね」  ベンジャミンもまた戦争の被害者だ。  彼が天涯孤独となり兵士としての道を選んだ理由は帝国軍だった。しかしだからといって、自分の憎悪が仲間の死の一端を担っているなどという現実を誰が受け入れられるだろう、あまつさえそれを仲間に知られるなど。 「大丈夫よ、ここにはもうあなたしかいないのだから」  優しく囁く。アーロン、ダグ、セドリックは死に至り、エグムントは…。 「彼は逃げたわ」
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