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いるべきそこに、いるべき男はいなかった。
「エグムントはとてもストレスに弱いの。考えようでは優しいのかも知れないのだけれど」
私は涙を流したまま、困ったように笑う。
「だから誰の前にも立つことなく、槍みたいな野盗山賊には不似合いな武器を持って、いつだってあなたたちの後ろに立っていたのよ」
「そん…な…」
彼はリーダーの資質があったのではなく、いや、ないわけではないが、それ以上に自らが鉄火場に立つことを嫌った。
熱狂も恐怖も怒りも痛みも、何もかもが彼の判断を狂わせることを、エグムント本人が一番理解しているのだから。
ベンジャミンは地に伏して丸まった。
強い痛みをこらえる時、それが体であれ、心であれ、ひとはどういうわけか誰かに首を差し出すように天に背を向けて丸くなる。
「あなたが死より恐れた秘密を知るのは私だけ。私はあなたの名誉を傷付けたりしないわ。だから、もうお休みなさい」
私は伏したベンジャミンから微かに漏れ聞こえる嗚咽を聞かなかった振りをして、無防備に晒された延髄へ素早く剣先を挿し入れ、抜き取る。
瞬時に意識を断ち切られたベンジャミンを仰向けに寝かせるとその瞼をそっと閉じて立ち上がる。
そして私もまたその双眸を閉じた。
「さあエグムント。あとはあなただけよ」
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