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気が付くとそこはアジトのそばだった。自分でも何がなんだかわからなかった。俺はどうしてこんなところに?
いや、そうだ、アレンとダグがやられたんだった。ベンとセディも手負いだ、助けを呼ばないと。いくら相手が化け物じみてるといっても所詮は女ひとり。こっちにはボスもいるし数で押せばどうってことはないはずだ。
山の斜面にみつけた洞穴を拡張したアジトにはまだ十人の仲間がいる。あんな女のひとりやふたり…どうってことは…。
熱くなりがちな思考を妨げるように錆臭い香りが鼻をついた。
嗅ぎ慣れた匂い、ただそれはいつだって自分の手元ではなく、一歩離れたところに充満しているものだった。
血の匂い、それも大量の…閉鎖空間にどれだけの血を流せばこれだけの死の気配が満たされるのか。
それ以上足が進まなかった。もう、見るまでもないだろう。
そもそも、俺たちがあの女を見つけたんじゃなく、俺たちがあの女に見つかったんじゃないのか?あの女はどこからやってきたんだ?麓の村からか?それとも…。
俺は洞穴を飛び出していた。それからどこをどう走ったのか覚えていない。ただ途中で足を滑らせて渓流へ落ちて流されたのは確かだ。何度も溺れそうになりながら流され流され、どうにか岸壁にしがみ付いて、わけもわからないまま、また何日も逃げた。
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