山賊狩りの泣き女

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 はずなのに。  力尽きたように木の洞に隠れて眠り、どれだけの時間が過ぎたのだろう。目を覚ました時最初に目に入ったのはあの女だった。 「おはよう、エグムント」  逃げ場は無い。武器も無い。どうして、どうして、どうして…。 「なん、で…ここがどこかなんて、俺だって知らないのに!どうしてお前がっ!!」  覗き込んでいた女が口元に手を当てて困ったように笑った。 「そうね、あなたは逃げるのに必死で、生きるのに必死で、ここがどこだか知りもしない。けれど、見て来たでしょう?」  意味がわからなかった。けれどもその俺の反応も承知だといわんばかりに女は続ける。 「あなたはまったく意識できなかったのだけれど、あなたの目は走ってきた光景を、足を滑らせて川へ落ちる瞬間を、流されて必死にしがみ付いた岩を、這いあがった岸を、ふらつきながらかき分けた茂みを、全部見ていたのよ」 「なにを、いって…」 「私の眼はね、特別なの。私が見たひとの過去を全て見通す過去識(かこしき)の瞳」  だから俺たちの名前も過去も何もかもを知っていた。いや、俺たちの過去を読み取ったのか。女はいつの間にか俺に覆いかぶさるように迫り、涙を流す。 「そして一度見たひとの過去は少し意識すればいつでも見直せる。つまりね…」  手足に、首に、ちくりと僅かな痛みがあった。嗅ぎ慣れた錆のような匂いが広がっていく。  意識が…  遠のいて… 「私はあなたのをいつでも見られるの。だから、無理にここでなくともいつか追い付いていたのよ」  化け物め…クソ、ついてない…でも、そうか…。 「あなたもこれで終われるでしょう?おやすみなさい、辛い生き様は、もうしなくても良いのよ」  ああ…これで…。  頬に落ちる冷たい感触が、俺の意識の最後だった。
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