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「ほら、曼珠沙華が咲いてるよ」
赤い花が一処にだけ、固まって咲いている。細い茎が風にゆらゆらと揺れていた。
「曼珠沙華は花は葉を知らなくて、葉は花を知らないんだって。私たちみたいね」
曼珠沙華は、葉の無いうちに咲き、花が終わってから葉だけが伸びる。
それが何故、自分達に似ていると?
「赤い花、血の色みたいでしょう?」
ゾクリと背筋が冷たくなった。あなたは何を言いたいの?
「曼珠沙華はな、葉見ず、花見ずの花じゃ。親を知らぬ子と、子の顔を知らぬ親のようじゃな」
振り向くと。古刹僧が佇んでいた。
古寺の片隅に咲く曼珠沙華。血のような赤が、夕闇に溶け込もうとしていた。
私の隠しごとを覆うように群生する朱色の花。まるで、血がじわじわと広がるよう。
「さあさあ、彼岸が明けるよ。お前さんも早くお帰り。川向こうに」
川向こう?
「向こう岸に、待っとるよ」
誰が待ってるの?
老僧は皺の刻まれた顔でニイッと笑った。
「お前さんの埋めた子が」
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