春風招くは紅葉の葉

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 同じ空の下、賑やかな人通りを進む、二人の若者がいた。 「(みや)様、お待ちください」  先をどんどんと進んでいる青年を、それよりは年上風の男が小走りで追う。青年は自分を呼び止める声を気にも留めず、興味津々といったように周囲をきょろきょろとしていた。 「うるさいぞ、(しきみ)。黙らんか」  青年はやっと足を止め、樒と呼ばれた男は少し息を切らして追いつく。 「ここが(きょう)国の都、永安(えいあん)か」  青年、皇多聞(すめらぎのたもん)は目を輝かせていた。 「宮様、私にはどうしてもうまくいかない予感しかしません」  顔を青くし、ため息をつく樒だが、少し間を置いた後多聞を見やる。どうやら話を聞いていない。 「宮様の御身に万が一なにかあったら、皇太后様に首を飛ばされます」 「皇太后(おばあ)様に?まあ、樒は武芸に優れておるし、きっと上手く行く」 「いきません。そもそも貴方様は(しん)国の庚宮(かのえのみや)様なのですよ?次のお(かみ)となられる方なのですよ?…そんな方が侍従一人のみを連れて、内密に海を越えてはるばる隣国まで来るなんて」 「わかった、わかったから。樒はいつでも口うるさいの……見ろ、あれはなんだ?焼いた肉串のようだ。行ってみよう」  そう言うや否や歩き出す多聞に、樒は慌ててついて行く。多聞は見慣れない土地や景色に、心躍る心地がした。  話す言葉も、服も、暮らしも、何もかもが晋の禁中とは違う。  あたたかで麗らかな春風は、まさに出会いを運ぼうとしていた。
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