悲ロイン、玉尾ヒロエ

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◇ 「え? 瀬田さん。今、何て言ったの?」  まるで昨日の再現のように私は耳を疑っていた。 「ですから入りたいのでござる。バレー部に」  今度は同じクラスの瀬田上緒(せたあげお)がバレー部に入部を希望してきた。  いつも教室の隅で本を読みふける、運動とは無縁の人だと思っていたのに。 「どうして急に? 確か運動経験無いんでしょ?」 「動機はこれでござる」  トレードマークの丸メガネをキラリと反射させ、瀬田さんは鞄から本を取り出すと、その表紙を私に見せつけた。 「恥ずかしながら拙者、この大人気バレーボール漫画、“ファイキュー!”に感銘を受け、拙者もバレーを始めてみたいと思った次第で候」  漫画の影響……。よくあるパターンだわ。 「一応訊くけど、選手として入りたいのよね?」 「無論でござる」 「言っておくけど、コーチはとっても厳しいわよ。あなたの望んでいる漫画のようには決していかないと思うわ」 「ほほう、熱血コーチでござるか。拙者、昭和スポ根アニメも守備範囲ですから大丈夫でござるよ」
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