■相原編・後日談1:誕生日プレゼント

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■相原編・後日談1:誕生日プレゼント

※本編から数ヶ月後の話です。 「今、何か欲しいものはあるか?」 「んー? そうだなぁ。来月発売のゲームかな」  間髪入れずにそう答えた沙和は、向かいに座る相原が微妙な表情に変わったのを見て、あれ?と首をかしげた。  普段から相原は沙和がゲームをしているのを容認しているし、次はどれを買おうかななんて話もよくしているから、沙和としては何の違和感もない答えだったのだが……。 「あ、ああ! あれだね! 誕生日!!」    無言の視線の意味を推し量って数秒。  ようやく沙和も気づいて、大きくうなずいた。  現在は十月の終わり。来月の半ばには沙和の誕生日がやってくる。相原が聞きたいのはその件だとようやく思い至ると、相原もふっと口の端をあげた。 「さすがに誕生日にゲームを贈るのは控えたい」 「……ですよねぇ」  たははと沙和は愛想笑いでごまかしながら、いまだ湯気をたてているピザを一切れ、自分の皿へと導いた。最近、週末のお昼によく行くようになったイタリアンの店は、パスタもピザもメニューが豊富で、今日はどちらも一種類ずつ頼んでシェアしている。タバスコをかけながら、再度相原の問いに対する答えを考えてみたものの、残念ながらすぐには浮かんでこなかった。 「うーん……欲しいものかぁ……。私あんまり物欲ないからなぁ」  ゲーム関連のものならば、欲しいものはたくさんある。  新しいハード機が欲しいし、攻略本や設定資料集もいくつかピックアップして欲しいものリストには追加してある。  けれど、それ以外でと言われると、特にないというのが答えだった。洋服にこだわる方ではないし、化粧品も社販で安く買えるし、アクセサリーも興味はない。 「それなら俺が選んでかまわないか?」 「うん、いいよ。相原の方がセンスありそうだし。おまかせします」  軽い気持ちで承諾する沙和に対して、相原は意味深な笑みをみせた。あれ? とここでも沙和は思ったのだが、今更撤回するのも気が引けてそのままその場は終わり。何事もなく穏やかに時間は流れ、あっと言う間に沙和の誕生日当日がやってきた。  朝起こされた沙和は、起き抜けに相原から大きな箱を手渡されて、目を丸くした。 「誕生日おめでとう、望月」  柔らかい微笑みとともに、早く開けてみてほしいと視線で請われる。  いまだ寝起きでぼんやりしている(しかも寝癖もひどい)沙和に対して、相原は既に顔を洗ってきているようで普段通りの涼しい顔だ。 「ありがとう……。なんかすごく大きいね、これ」  紺色の箱には銀色でその店の名前らしき単語が印字されている。その名称に覚えはないが、全体的に漂う高級感から、かなり値が張るものが入っていることがうかがえた。 (い、一体何が入ってるの……?)  おそるおそるその箱を開けると、まず飛び込んで来たのは淡いサーモンピンク。綺麗な色だなと素直に思い、そっと中身を取り出すと、柔らかい素材のワンピースだった。 「……かわいい……」  ベッドから起きて、合わせてみるとちょうど膝がかくれるくらいの丈でスカートがふわりと揺れた。 ビスチェのような形で胸元は少し開いているが、その上の肩まわりの部分はオーガンジー生地で覆われているから、そこまでセクシーな形には見えない。ほどよく肌を隠せる上品な形のワンピースだった。 「顔を洗ったら着てみてくれるか?」 「う、うん」  一度ワンピースを箱に戻して、沙和は慌てて洗面所へと向かった。 (あんな上品なワンピース……一体どこへ連れてってくれるつもりなんだろう!?)
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