■相原編1:独占欲

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 あの夜のことも画像のことも記憶に残っているし、相原の感情的な表情だって目に焼き付いている。  けれど、普段の生活において彼はひたすらに優しく、沙和を気遣ってくれた。    相原から柔らかく微笑みかけられると心は震え、優しくされると心に沁みた。  すっかり消えたと思っていた恋心が、その時だけは疼く。 (自分で自分がよくわからない……)  沙和は迷いをふりきるためにも、ゲームに集中することにした。相原はしばらくぼんやりとした顔でその画面を見ていたが「ああ……そうだ。望月」と沙和を呼ぶ。その目はいつもの鋭い光が宿り、加えていたずらっ子のような嗜虐的な色も見えた。 「……そうだったね」  私も忘れてたなんて白々しく答えて、沙和はローテーブルに置いてある沙和のスマホを相原の手の上に乗せる。 「ありがとう」  相原は既に沙和のロック解除の番号を知っている。慣れた手つきで操作して彼が確認するのは、沙和のメッセージアプリだ。  沙和が相原の部屋に行った日の夜に言われたのだ。  壮太の連絡先を消す必要はない。ただし、読むことも返信することも許さない、と。    そして相原は毎日その約束が守られているか確認している。  たとえメッセージを消去したとしても、自分は復元できる方法を知っているから、妙な気は起こさない方がいい。初日にそう言われ、事実相原はそれもチェックしているようだった。  がんじがらめである。 「今日も送ってきてたんだね。毎日ご苦労なことだ」  相原は小さく笑みをこぼす。 「『マジどうしたの!? 部屋いないじゃん! 何があった!?』か。焦ってるね」  沙和の代わりに相原が読み上げ『既読』の状態にする。その後はもう相原は興味がないようで、スマホをローテーブルに置き直すと、一度大きなあくびをしてから沙和の太ももを一度撫でた。  以前うっかり既読にしてしまったことがあり、その夜に激しく抱かれた経験があるだけに、もう沙和は壮太からのメッセージは決して開かないようになっていた。  けれど、ずっとこうして既読だけつけて反応しないのは、壮太に申し訳なさすぎる。 「あのさ……『相原と付き合うことになったから、もう連絡しないで』って返信してもいい?」  沙和の言葉に相原は一瞬だけ驚いた顔を見せた。その申し出が意外だったのだろう。沙和の目を真下から見つめ、真意を探ってくる。  壮太にこれ以上心配をかけたくない一心だった。  やろうと思えば、会社の誰かからスマホを借りて壮太に電話することもできるが、おそらく仕事中は電話に出られないだろう。それでまた『どうした!? もしかして電話した!?』なんてメッセージを送られたら、それこそ大惨事になってしまう。 「……いいよ」  相原は目の底を光らせながら、うなずいた。沙和はこわばった口元を動かして、なんとか「ありがとう」と答えると、さっきの言葉通りの文面を打ち込む。それを送信して、おしまい。  自分で決めて提案したことだというのに、悲しかった。   沙和は唇を噛みながら、コントローラーを握りしめる。 「『本当に!?』と返事がきてるよ。反応速いね」  返事をしたければすればいいと相原に言われたが、沙和は「……いい」と低く答えた。壮太とやりとりを続ければ、そのうち電話がかかってくるかもしれない。そうなったら相原の嫉妬心が無駄に煽られてしまう。  薄々とわかっていたけれど、相原は嫉妬深い。そして、嫉妬がからむと……豹変する。 「……しつこいね」  小さくため息をついて相原は沙和のスマホを見下ろす。先ほどから壮太が何度もメッセージを送ってきているのだ。沙和から久しぶりに反応があったから、ここぞとばかりに打ち込んでいるのだろう。 (まずい……)  スマホが震えるたびに相原の目が冷たくなっていく。危機感が煽られた沙和は「電源切っとく……」とスマホに手を伸ばしたが、逆にその手を掴まれた。 「そのままにしておけばいい」 「……でも」 「いいから」  言うなり相原は起き上がると、沙和の頬を両手ではさみ、顔を近づけてくる。沙和も自然と目を閉じて、相原からのキスを受け入れた。舌先で唇をノックされれば、おずおずと口を開き相原の舌を招き入れるようにもなったことも、ここでの生活で慣れたことの一つだ。 「んんっ……」  ゆったりとした動きで口内をくすぐられ、沙和はくすぐったさに身をよじった。この感覚が徐々に快感に変わってしまうことは、もう経験上わかりきっている。舌が絡め取られる感覚に沙和は息を荒げ、ぎこちないながらも相原の舌の動きに応えた。 「……このまま……」 「……え……?」  
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