■相原編1:独占欲

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 一瞬唇を離した相原がうっそりと笑う。何か良からぬことを思いついた顔だ。相原は静かに沙和のTシャツの内側に手を滑らせ、肌をそっと撫でながら「あの男に実況中継でもしてやろうか」と呟いた。 「実況中継?」  素肌をすべる手の感触に身を震わせながら、沙和はしばし相原の言葉の意味を考えて──。 「やめて!」    ハッと気づいて自分のスマホに手を伸ばしたが、一瞬遅かった。相原の手の中にあるスマホは、再びのメッセージに震えている。それを忌々しそうに睨みつけた後で「……まあもう少し望月が蕩けてきたら考えよう」と、やや乱暴にスマホをローテーブルへと戻す。そして沙和が手を伸ばせないように彼女の両手首を掴みながら、相原は沙和をソファへと押し倒した。 「や、やだ! やだやだやだ! 絶対やめて!」 「……こうなって気づいたんだが」  相原は沙和の抵抗などものともせず、至極真面目な表情で沙和を見つめながら「俺は望月が嫌がっているのを見ると、興奮する」と言ってのけた。 (それ、真面目に言うことじゃない!) 「でも望月が気持ちよさそうに喘いでいても、興奮する」 「そっ、そんなこと言わなくていいから!!」 「……得だな」  勝手に一人で結論づけると、相原は沙和のTシャツをめくりあげた。スポーツタイプのブラを押し上げ、愛しそうに胸に視線を注いでいる。 「お願い、壮太には電話しないで……聞かれたくない……」 「聞かせた方が諦めがつくんじゃないか?」 「そんなこと……」  ある、とは思うけれど、嫌だ。嫌すぎる。 「……でも望月は声を我慢するからな」  相原は沙和の両手を彼女の頭上で押さえつけたまま、思考を始めてしまった。胸になまぬるい空気がさらされて、じわじわと沙和を落ち着かなくさせる。 「と、とりあえず服……おろして……」 「いいじゃないか。望月の胸は綺麗だよ」  相原は視姦をやめる気はないらしい。ブツブツと小声でなにか言いながらも、視線はしっかりと沙和の胸に突き刺さっている。恥ずかしいというだけで、沙和はじわりと汗をかきはじめていた。 「ああ、いいことを思いついた」  絶対に悪いことだ。沙和にとっては、確実に。  聞きたくなかったけれど、相原は「望月が声を我慢しないと約束するなら電話はしない。でも少しでも我慢していると俺が判断したら電話する。こういう勝負はどうだ?」と目を輝かせた。 「別にわざとらしく声をあげる必要はない。でもいつもみたいに息を止めたり、手でおさえたりするのはダメだ。……できるだろう?」 「……もし嫌だって言ったら?」 「不本意ではあるが、電話しよう」 「全然そんなこと思ってないくせに……」 「思っているさ。望月の声を他のやつに聞かせたくなんかないからね」 「だったら……ふあっ」  すくいあげるように胸に触れられ、体が敏感に反応する。知らない間に心よりも体の方が彼の手を待っていたようだ。愕然とする沙和とは対照的に、相原は邪気のない笑みを浮かべると「さあ、始めようか」と臨戦態勢をとった。
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