■相原編2:勝負(★)

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 自分の体なのに、あまりにも未知な場所だから感覚がつかみきれない。場所を探して擦られていると気持ちはいいけれど、いつまでも相原を内側に招き入れられず、沙和は少し焦ってきた。 「相原……」  困った顔の沙和に相原はゆったりと微笑むと「手伝おうか」と言うなり、自分の熱を調整して沙和の膣にあてがった。指で膣の位置を確かめた後「いいよ、腰を落として」と囁く。 「うん……」  言われるがままの動きをしていくと、先ほどとは違いしっかりと内に熱が入ってくる感覚がする。狭い場所を押し広げられる感覚にぞくぞくとした快感が背筋を走った。 「ああんっ……」 「……はいったね……」  相原も一瞬だけ小難しい顔をした後で、額に浮かんだ汗をやや乱雑にぬぐった。そしてぎゅっと沙和を強く抱きしめると、唇を啄ばむようなキスをする。その振動で細かく膣の中が擦れて、沙和はその度に短く息を吐いた。 「……望月……」  いつのまにか目尻にたまってこぼれた涙を、相原がなめとる。彼は沙和の涙が好きなようで、少し目を潤ませるとすかさず唇を寄せてきて、あまつさえ更に泣かせようとしてくる。 「……動くよ」    ずんっと下から一突きされて「ふあっ……」と沙和は甲高い声をあげた。拍子にまた涙がこぼれる。それが合図になり、相原は本格的に動き始め、沙和も相原に合わせるように腰を揺らした。 「……くっ……」  穿たれたままの質量がふくらんでくる感覚とともに、体がどんどん熱くなっていく。だんだんと速く深くなっていく打ち付けに、沙和は嬌声を上げ続けた。 「も……ちづきっ……」 「ああっ……んああああっ……!!」  肌同士がぶつかり合う音に聴覚からも刺激を受けて、沙和は高みへと昇っていく。それは相原も同じのようで、耳を赤くさせながら余裕のない表情になっていく。 (相原も……蕩けてる…‥)  情欲に潤んだ目が、快楽を貪ることに必死な形相が、どうしようもなく色っぽい。それにあてられるように沙和も欲情していく。  だんだんと頭の中が真っ白になっていく感覚に振り落とされないように、沙和は必死で相原にしがみついた。  ◆  結果として、勝負は沙和が勝ったということになる。相原が壮太に電話することは阻止できたのだから。  ただそのかわりに散々喘いだ喉は痛みを訴え、声が枯れてしまっていた。  そして体がものすごく重くてだるい。翌朝目覚めた時も寝る前と同じ感覚であることに軽く絶望して、沙和は枕に顔をうずめた。  セックスが激しい運動であるという認識はあったけれど、沙和は相原とこうなって認識を改めることにした。  セックスは激しすぎる(・・・)運動だ、と。  体力がなのか精神がなのかはわからないが、とにかく消耗する。 (昨日が金曜日で良かった……)  もし今日が会社に行く日だったとしたら、行ける気がしない。 (相原は……もう起きたの……?)  隣で眠っていたはずの相原の姿はない。そっと手を伸ばして布団にさわると冷えていたから、起きてから結構な時間がたっているようだ。ついでに時間を見たら、もう昼近くになっていた。さっきから雨音が激しいから、今日も天気は悪いようだ。 (お腹すいたし、喉もかわいた……)  もう少しまどろんだら起きようと決めて、沙和は再び目を閉じた。布団の柔らかい感触とともに相原の残り香に包まれていると、嫌が応にも昨晩の激しさを思い出す。   (……やっぱり起きよう)  カッと目を見開いて、沙和は体を起こした。ぎしぎしと節々が痛む。そして下半身がべたついている。 「うう……シャワー……」  ベッドから降り立ち、なんとか立てることに安心して、沙和はタオルケットを体に巻きつけた。 (……バスローブってこういう時のためにあるものなのかもしれない)  人生で初めてその存在意義を発見し、沙和は「なるほど……」と一人呟いた。今までの沙和にはまるで必要のないものだったけれど、ここにいる以上、あると便利かもしれない。  一瞬本気で購入を考えたが「いやいや……」と頭を振って、沙和は寝室のドアを開けた。  リビングに人影はない。バスルームだろうか。シャワーの音は聞こえないと思いつつそっと確認すると、そこにも相原はいなかった。  どうやら出かけているようだ。 (こんな朝から?)    一体どこへ?  不思議に思うが、とりあえず自分のことを優先させることにする。何はなくともシャワーだ。 よろよろと体を引きずってバスルームに駆け込み、鏡にうつった自分を見て沙和は一瞬固まった。  体の至るところに赤い花が咲いている。    昨晩の相原はとにかく色々なことをしていたので、キスマークの数が多い。  物言わぬその花から、相原の自分への執着を感じて沙和は一度震えた。同時に下腹部に小さな疼きが生まれたのにも気づき、ため息を吐く。  そしてそれを振り切るように、勢いよくシャワーのコックをひねった。
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