1331人が本棚に入れています
本棚に追加
Collarだけを身につけた希純が、涙袋をかすかに膨らませ、目を潤ませて立っている。
どこか所在なさげで、それでいて何かから解放されたような、剥き出しの姿をさらけ出している。背筋を伸ばした希純を前にして、光紀はひっそりと生唾を飲みこんだ。Collarの留め具部分にLeashを繋ぐと、手の中できれいに丸めていたハーネスを広げてみせた。
「いまから、これを希純さんの体に巻きつけてあげます」
「んっ……」
一般にハーネスといえば、高所作業やパラグライダー向けなど、身の安全を確保するものが主流である。もしくは迷子紐を兼ねた幼児向けのもの。それから、尖ったファッションにも使われるようになったが、元々は馬具が語源だという。
肩回りや二の腕を革ベルトで締め上げ、なめらかな胸筋に沿って巻いていく。手首や足首も締めつつ、太ももや臀部を強調する仕様で、これだけでは身体の自由を奪うものではない。とはいえ、それぞれについたリングにチェーンや専用のスティックを繋ぎ合わせることで、いかようにも拘束できる便利な代物だった。
「息が荒くなっていますね」
光紀が希純の左胸に手を置くと、破裂しそうなほど激しく鼓動がリズムを刻んでいるのがわかる。
CollarをLeash、それにボディハーネスを纏った希純は、とても完璧に見えた。
「いま、なにを思っているんですか。Say」
肌の上を舐めまわすようにして、執拗にGlareを当てていく。こうして眺めているだけで手ずから希純を汚していく気がして、光紀の興奮は止まることを知らない。
もっと、もっと奪いたい。穢したい。
人としての尊厳すら欠片も残さずに、閉じこめて、繋ぎとめて、ひどく辱めて、いいように弄んでしまいたい。
Domの『業』は恐ろしい。
合意のない相手に仕掛ければ、罪に問われるとわかっていて、それでも恐ろしく醜悪な欲望が止められない。受け入れてくれるSubなしには、この行為は成立しない。
「……、ぃ、」
「聞こえません。もう一度」
「きもち、いい」
「こんな風に縛りあげられることが?」
「んんっ」
短めに持ったLeashを軽く引くと、同時にCollarが引っ張られる。不意をつかれてバランスを崩した希純が一歩、足を踏み出す。
「希純さんは、こうやって僕のペットにされるのが嬉しいんですか?」
「うんっ、うれしい……」
首が苦しくなったのか切なげに眉をしかめて、かすれた声でつぶやく。
この人は心の底から、僕とのプレイを求めている。
体が震えるほどの多幸感で満たされていく。
「僕も、かわいいペットが好きですよ」
光紀が告げると、希純は目を細めて蕩けるように微笑んだ。口の悪いところも、シャイなところも、凛とした姿勢も魅力的だったが、光紀にしか見せない表情が一番愛おしい。
「せっかくだから、もっとペットらしく飾ってあげたいですね。例えば、ここにカチューシャタイプのイヌ耳やネコ耳をつけるとか。うんと可愛くなりますよ」
「似合わない、そんなの」
「そうですか? 意外と似合うと思いますが。それから、こっちには尻尾が必要ですね。ここの口で咥えられるオモチャなら、いろいろ売ってますよ。あ、うちにあるオモチャに尻尾だけつけてもいいですね。きっと、すごく可愛い」
「や、やめろって」
「想像してみましたか? 希純さんは妄想だけでもう、こんなに反応してくれる。どんなアヤシイことを思い描いていたんでしょうねえ」
突然、静寂を壊すような不協和音が鳴り響いた。
最初のコメントを投稿しよう!