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私は今、幸せの絶頂にいる!
三十二歳、ついに理想の旦那を手に入れて結婚することになったの!
友達が代表に結婚式の祝辞をしてくれることになったし、本当に最高だわ!
こんなに幸せになっていいのかしら…とタキシードを着て隣に立っている旦那を見る。
旦那はイケメンな笑顔で頷いた。
ああ、なんて幸せなんだろうか…すべてはこの、私の美しさのおかげね!
「…幸佳ちゃんは普段からとても優しく、そしてフレンドリーです。女ながら会社では経営側の仕事に回っていて、本当に勤勉な人だと思います」
友達から祝辞の言葉が並べられていく。
「…一見一人で生きていけるように見える幸佳ちゃんですが、本当は壊れやすい心を持っています。仕事が上手くいかなくて泣いてしまうこともしばしばです」
…忌み言葉と重ね言葉だ。結婚式の祝辞には、「泣く」とか「壊れる」とか、そういう言葉や「しばしば」のような重ね言葉は印象が悪いのに。
私の友達は、そういうことを全く意識していないのだろうか。
「また、ストレスがたまると倒れることもしばしばあるので」
まただ!
「どうか優しく寄り添ってあげてほしいと思います。長くなりましたが、お二人の末永い幸せを祈念いたしまして、私のお祝いの言葉とさせていただきます。 ありがとうございました」
私は礼をした友達を、思わずきつく睨んでしまう。
私のその視線に気づいたのか、友達がにやりと、笑った。
ああ!やっぱりそうなんだわ!やっぱり晴海は私たちの仲を引き裂こうとしている!
…晴海に祝辞を頼んだのは、実は友達だからとかではない。
晴海とは、ほんの二か月前まで旦那を取り合っていた。
私の旦那となる人、秀人はイケメンで、料理もできて、さらに弁護士というエリート男子!幼馴染である私と晴海は、秀人を一瞬で好きになってしまった。
それからは泥沼だった。互いに互いを蹴落とそうとして、どちらも殺人未遂に至ったことだってあった。それは、二人だけの秘密だ。
秀人に媚びて、お弁当を作ってあげたり、必死にいい女を演じた。もちろん晴海だってそうだ。そうして半年間、私たちの戦争は続いた。
幼馴染だから譲ってやろうなんて気は起きなかった。昔からしたたかで八方美人な晴海と結婚したら、秀人がかわいそうだ。
だから私は、必死だった。
そうしてやっと手に入れたのだ。結婚までこぎつけた。やっと幸せになれる!三十路になってしまったけど、こんなエリートと結婚できるならそんなことは気にしないわ。
晴海に、私たちの幸せな姿を間近で見せるために、わざわざ結婚式の招待状を手渡しした。そのときの晴海はすごく、悔しそうにしていた。
だから、私は調子に乗って祝辞を頼んだのだ。
「精一杯、私たちを祝ってね♡」
晴海はこれ以上ないくらいの、恨みがましい顔をしていた。
拍手が起こる。
でも皆、祝辞の中で続いた忌み言葉や重ね言葉に少し動揺していた。
わざとだ。わざと晴海はやったんだ。私たちが別れればいいと。
その後の乾杯も、何もかもがすべてかすんで見えた。
晴海のせいで、私の幸せな気分が台無しだ。
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