同棲

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同棲

たった今、僕は倒れた。古いアパートの一室で、一緒に暮らしていた女にやられたのだ。夜中に腹が減って台所に居るところを、いきなりだ。「簡単には死なないものね」体をひくつかせ動けなくなった僕に、物騒な物を向けて彼女が呟く。その指は“引き金”に掛けられている。まさか、こんなにも嫌われていたなんて。 僕達は上手くいっていた。彼女は昼間仕事に行っていて、僕は夜型だったからあまり顔を合わせる時間はなかったけれど、お互い干渉することなく、自分のリズムを大切に出来るこの生活が気に入っていた。それが今日、仕事で何か嫌なことでもあったのか、眠れない様子の彼女が水を飲みに台所に来て鉢合わせた。余程虫の居所が悪かったのか、目が合った瞬間、水の入ったグラスを投げ付けられた。「何でここにお前が居るんだよお!今すぐ消えろ、ゴキブリ野郎お!」そして彼女は僕に向かって殺虫剤を噴射した。
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