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請う者
誰か助けて!そう叫ぶ事は案外難しい。そんな状況はそうそう訪れないし、誰に助けてもらうかはとても重要だからだ。誰でもいいから助けてなんて、どんな時なら言えるのだろう。何れにしても簡単に言うものじゃないと僕は思う。その誰かが善人とは限らないという事を、誰よりもよくわかっているから。
今、そんな状況が訪れている。大人になって道に寝転がるなんて、考えもしなかった。こんなに血が出る事が、手足が変な方向に曲がるなんて事が起こるなんて。歩道橋の上に、僕をこんなにした奴が見える。何故だろう、人通りはあるのに誰も捕まえようとしないし騒がない。足元に僕が倒れているのに目もくれない。
「誰か助けて」堪らずそう口にした事を、僕はすぐに後悔した。その声に足を止めた人々の顔全てに見覚えがあったからだ。僕が騙し、罵倒し、嘲った顔、裏切った顔だ。いつの間にか、この街の全員を敵に回したって事か。助けてなんて、誰にも言えない。
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