10人が本棚に入れています
本棚に追加
二四歳で小説の執筆と新人賞への応募を始めた。でも三年経っても、五年経っても私の小説が入賞したり書籍化されることはなくて、三十歳になる頃には「どこかで線を引かないといけないな」って思ったのだ。
書き始めたのが二四歳の誕生頃だったから、ちょうど干支が一周する三六歳の誕生日はどうだろう。そう考えたのだ。いくら遅くても三六歳の誕生日までにはデビューする。それが駄目ならサッパリと諦める。そういう風にカッコよく自分へのケジメをつけたのが二十代の末。今から考えれば無責任な話だ。十二年の猶予を与えるなんて、気の長い話だと思うかもしれない。でもそれは無意識の甘え。長期計画のように見せかけて、その実、結論を先送りしただけ。きっとどこかでそれだけの時間はあれば何とかなるだろうって希望的観測を持っていたのだ。
「今日の劇場版、楽しみですね」
「あ、うん。そうだね」
今日、二人で観に行く映画はアニメ史にも残る名作と言われて前評判は最高水準だ。原作はとある小説コンテストで大賞をとった作品だった。もう何年前のことか忘れたけれど、その作品名が結果発表のサイトで並んでいるのをリアルタイムで見たことは覚えている。自分はそのコンテストには出していなかったから「へー」ってだけ思って眺めていた。なんだかカッコイイタイトルだなって。同じ土俵に並んだ相手くらいに思っていたのだ。それがあれよあれよという間に、アニメ化に映画化。国民的な人気作品になっていった。
「この作品、舞台化もされるんですよ。知ってました?」
「へー、そうなんだ。舞台化かぁ〜」
あまりそういうお芝居は見に行かない。幅を広げるためには見に行った方はいいのかなぁ、って思うけれど。
「実はその演出を手掛けるのが高校の演劇部の先輩なんですよ」
「え? なにそれ? 凄いじゃん?」
「はい、凄いんですよ。先輩は。……なんだかちょっと焦っちゃいますよね」
私も十二年の間に、創作仲間が一人抜け二人抜けしていった。ある仲間は受賞してデビューして前に抜けていった。ある仲間は筆を折って、後ろに抜けていった。どちらを見ても思ってしまうのだ。私も潮時かなって。
最初のコメントを投稿しよう!