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アレスタシオンはどこまでも変わっていて、一介のメイドであるシャリーマを同じ食卓に呼び、同じものを食べさせる。
出会った当初、痩せていた身体を心配されたことが発端ではあるが、貴族の振る舞いには思えない。ひょっとしたら自分をそういう目的で囲ったのだろうかと思い、夜半に部屋を訪ねたこともある。しかし目を剥いて驚かれ、こんこんと諭されたことから、そうではないのだと理解はした。
(……要するに真面目で、ドがつくぐらいの堅物なのよね、この方は)
男色家なのかもしれない――と、シャリーマはひそかに思っている。
よく訪ねてくるグランツという友人男性も美形で、主が銀なら彼は金。明るい金髪に浮かぶ笑顔は太陽よろしく輝いている。どちらにせよ眩しすぎて、縁のない存在である。
明け方に戻ってきたアレスタシオンは軽い食事のあとに部屋へ下がり、シャリーマは家事を始めた。
買い物は主が起きてからのほうがよいだろう。これといった約束はないが、急な来客がないとはかぎらない。
芋の皮むきだけでもしておこうかと台所にこもっていると、ドアベルの音が響いた。エプロンを軽く叩き芋の皮を払い落としたあとで出迎えた人物は、太陽の化身たる美形、主の友人である。
「やあ、シャリーマ。シオンは起きてるかい?」
「お部屋に入って二時間ほどですので……」
「まあ、いいや。上がらせてもらうよ」
勝手知ったる態度で進んでいく相手を止める術はない。彼も貴族だ。ただの使用人がどうこう言える立場でもない。
そう思っていると、くるりと振り返り笑顔を浮かべて言った。
「お茶を頼むよ、レディ」
この人も変わり者だ。
シャリーマは頭を下げ、台所へ戻った。
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