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二話「姫との日常」
さて、どうしたものか?自分が風呂に入ろうとしたのに、一人の少女が鼻歌を歌いながら、シャワー出しまくって頭を洗ってるではないか。かわいらしい……いやいや、まずいことだろう。親にバレたら、なんて言われるか。一人っ子の私にとってこれは唯一の苦しみだ。
「ん?」
やばい、気付かれた。でも、隠れるわけにもいかない。
「あっ、ごめん……」
「なんだ?何を恥ずかしがっておる。いつも見てるじゃないか?」
「はあ?いや、分かったぞ。変質者にさせる気だな」
「何を愚かな。この姿になればよいか?」
目の前には少女が消えて猫がいる。私はやっと理解した。
「お前、姫か?」
「うむ。何をぼおっーとしておる?さっさと洗え」と少女姿に戻りながら、彼女は言う。
「そうだな……ってなるか、アホ」
そんなことをしてると、洗面所と廊下を跨ぐ扉の向こうから声がかかる。
「ねぇ、大丈夫なの?姫ちゃん、平気?」
「はぁーー??おい、どういうことだ」
姫は目の前にある曇った窓に『うちら、いとこ』と書いた。
「猫がいとこなわけあるか」
「大丈夫なの?」
しょうがない。
「お母さん、大丈夫」
「そう」
母親はその場から立ち去ったようだ。そして私は彼女に向き合う。
「つまりだ、私の能力でそういう関係に陥ったのだ」
「知るか」
「ほら、早く私を洗え」
彼女に触ってみる。柔らかい肌触りが自分の手のひらに触れてくる。
「お主、何か股間のあたりから変なのが生えたぞ」
「触るな」
「うむ」
急に怒り口調になったので涙目でこちらを見る姫が愛しく思えてきた。心の中で「こいつはただの猫なんだ」と唱えながら、洗っていく。そして風呂というミッションは何とかこなした。
リビングに戻るなり、ご飯が用意されていた。
「おいしそう」
姫はキラキラと目を輝かせるなり、ご飯に齧りつこうとしている。
「まだ熱いわよ?」
そう母親に言われながらも、姫は手に熱い唐揚げを取る。しかし熱すぎたのか、涙目で舌を出してる。
「ほら、見ろ。熱かったろ?」
「うるにゃい」
私たちはその後、姫という追加者を加えながらも普通の生活を送った。これでそのまま何も無ければよかったのだが、そうもいかなかった。
寝ていた私が目を覚ました頃だった。私の腕元で寝ていたはずの姫がいないことに気が付き、「あれ、姫は?」と呟きながら廊下を歩いていく。
リビングに行くに連れて何か聞こえてくる。その言葉はリビングに辿り着いてやっと分かった。
「お前のせいだ」
その言葉を一定のリズムで吐きながら、赤い月を見て人間姿の姫や両親、さらには秋山刑事さんたちがそこにいた。いや、知らない人たちもいる。
「ねぇ……ねぇってば!!」
後ろから声がかかるなり、肩を叩かれる。振り向くと、そこには頭から血を流し、胸にはナイフが刺さった金嶋さんがいた。まるで死人の姿だ。思わず、飛び上がってしまった。その拍子に何科にぶつかった。
「いたーい!!もうっ!!」
目の前には四つん這いで私の顔を覗いていた人間姿の姫がそこにいた。
「んだよ」
「ママさんに言われて起こしに来たのに。あんた、うなされてたよ。怖い夢でも見たの?」と不思議そうな顔をしていた。
「心配するな、リビングに行くぞ」
私は強気になってそう言った。ホントはこいつが何か知ってるのかもしれない、と思いながらリビングに向かうのだった。
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