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◆◆◆
夏休みの最後の日。
二学期から、マジメに生きてるおれを見た他のヤツらがなんかヘンな空気になったりしねえかなとか、どうでもいいけどけっこう大事なこと考えて頭がモヤモヤしてたら寝れなくなって、朝の七時に目が覚めてしまった。
で、しょうがないから起きて、朝飯を食ってから家を出た。
前までなら寝てた時間の通学路は、まだあんまり人がいなくて、ちょっと涼しくもなってきていたから、早起きも悪くねえなとか思ってたら、学校に着いた。
で、廊下を歩きながら、朝練をする野球部を「よくやるよな」って見ているうちに教室に着いて、引き戸を開けたら、おれのひとつ前の席で、学級委員の横川磨智が本を読んでた。
「あ」
思わず声を出しちゃったおれをビックリしながら一瞬だけ見て、横川は慌ててまた小説を読みはじめた。
さすがに前の席のヤツを無視するのもなんかなあって思ったから、横川の席を通るときに「おはよう」って言ってから席についた。横川はちょっとビクッてしただけでなんも言わなかったけど、まあ、しょうがない。
で、おれはカバンから数学の参考書を出して、さっそく自習をはじめた……
……ぜんぜん分からん。
で、頭をかかえてウンウン唸ってたら、急に振り返った横川が、
「お、おはようございます」
って、すげえヘンなタイミングで言ってきた。
「なんでいま?」
って、思わず聞いたら、
「なんかさっき、無視したみたいになっちゃったので……」
って、横川はオドオドしながら黒縁眼鏡を上げて言った。
おれは、こいつマジメだなって思った。
「な、なにしてるんですか?」
横川がおれの机に目を落として言う。
「見りゃ分かるだろ、自習だよ」
「自習? 越野くんが?」
「悪いかよ?」
「ご、ごめんなさい! 悪くないです!」
あわてて前を向く横川。
言い方がちょっと強かったなって思ってから、そういえば横川ってアタマよかったなって思い出した。
「なあ、横川」
「はい!」
もうすっかりビビってる横川が、また振り返った。
「そんなビビんなよ」
「はい!」
「……ここさ、教えてくんない?」
「え……?」
「ここ」
言って、おれは参考書の問題をシャーペンで指した。
「ぜんぜん分かんねえんだよ」
「あー、はい。ここは——」
——言って、横川がその問題をスラスラと解いて、それからおれにも分かるように教えてくれた。
「お前、やっぱアタマいいんだな」
「いやー、そんなそんな」
顔を真っ赤にして、頭を掻きながら横川が言う。
「横川さ、朝いつもはえーの?」
「あ、はい」
「じゃあ、おれの自習の先生やってくれねえか?」
「先生、ですか?」
「うん。分からないときだけでいいからさ」
「あ、はい。自信はないけど分かりました」
なんか無理矢理オッケーもらったような気もするけど、ありがてえなって思った。
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