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で、次の日から早めに行ったら、もう横川は席で小説を読んでいて、あいさつをしたらあいさつをしてくれて、それから毎日おれが分からないところを嫌がらずに教えてくれるようになった。
で、横川はやっぱりマジメなヤツで、朝早くに教室へ来たら、まず窓を開けて換気して、たまにうしろにある花瓶の水の入れ替えもやったりしてるみたいだった。馬鹿正直に学級委員の仕事をしててそれだけでも大変なのにおれの自習の先生までやってくれるなんて、なんて良いヤツだって思って、気がついたらおれは、横川のことを尊敬するようになっていた。
◆◆◆
で、今日もまたおれは横川に勉強を教えてもらってる。
「——というわけで、答えは x=5 y=8 になります」
「あー、なるほど。やっぱ、横川って教え方うまいな」
「いやー、そんなそんな」
「マジで先生になれるんじゃねえか?」
「ほんとの先生かあ。考えたこともなかったです」
腕組みしたまま天井を見上げて、まんざらでもなさそうに横川が言う。
「なんか、他になりたいもんでもあるのか?」
「うーん、なりたいっていうか、まだただの憧れでしかないんですけど、わたし、小説を書いたりしてます。小説には力があるって、わたし思ってるんです」
「力?」
「はい。辛いときや悲しいときには、いつも小説に救われてきました。小説を読んでたら、悩んでるのも苦しんでるのも、それからがんばってるのもわたしだけじゃないって、みんながんばってるんだって思えるんです。だからわたしもいつか、悩んだり苦しんだりしてる誰かのそばに寄り添って、優しく『がんばれ』って言ってあげられる、そんな小説を書きたいんです」
急にいっぱいしゃべりだした横川に圧倒されながら、
「へ、へえ、すげえな。ってことは、小説家になりたいのか?」
って聞いたら、横川は急にかなしそうな顔になって、
「それは、たぶん無理です」
って、言った。
「は?」
「……小説家は、ちゃんと才能のある人がいっぱい努力をして、それでなんとかなれるかどうかのものだと思うんです。わたしには、そんなすごい才能なんてないですから。わたしのは、ただの趣味です」
「そんなの分かんねえだろ?」
「でも——」
「——でもとか言うなよ。アタマの良い横川がそんなこと言ったら、バカなおれは、もっとバカみたいになるじゃねえか」
ちょっとイラついて自分でもよく分からないことを言ったら、横川がキョトンとした目でおれを見つめていた。
「越野くんは、なにか目指してるんですか?」
「……先生になりたいって思ってる」
横川から目を逸らして、おれは言った。
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