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「先生、ですか?」
「バカみたいだろ?」
「……だから、真面目になろうとしてるんですか?」
「そうだよ。横川みたいにマジメで勉強もできて、ほかにもいろいろちゃんとやってるちゃんとしたヤツが『小説家になる夢』を無理だとか言ったら、バカなおれが『先生になる夢』を叶えるのなんて、絶対ムリな夢になっちゃうだろ? だからさ、お前がほんとは小説家になりたいんだったら、無理とか言わねえで、ちゃんと小説家を目指してくれよ。おれバカだからよく分かんねえけど、横川ならたぶん、優しい本が書けると思うし」
自分でも意味の分からないことをいっぱい言って横川を見たら、またキョトンとしていた。
「……意味が分からんよな。ごめん、おれバカだからよ」
「あ……いえ、そうじゃなくて、越野くんがそんなにいっぱいしゃべるの初めて見たから」
横川に言われて、顔が熱くなった。
「でも……でも、とっても感動しました。小説家になれるかどうかは分からないけど、わたし、もっと本気で小説を書いていこうって思いました」
本当に感動してるみたいで、横川が目をキラキラさせて見つめてくる。
おれはなんかもっと恥ずかしくなったからまた目を逸らして、
「まあ……いつか読ませてくれよな。おれも漢字の勉強いっぱいして、横川の本、読めるようになるから」
って、言った。
「はい。分かりました。わたしも、越野くんにいちばん最初に読んでほしいです」
その言葉にハッとして顔を上げたら、横川はさっきよりも目をキラキラさせておれを見ていた。
これ以上、横川を見るの無理だってなって、
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ」
って言って、おれは教室を出た。
で、トイレに向かって歩いてたら、向こうからコミセンがやって来た。
「おう、越野。どうした? 顔が赤いが、熱でもあるのか?」
「あるわけねえだろ」
「そうだな。お前、体だけは丈夫だからな」
「うるせえよ」
「まあ、最近はちゃんと学校に来てるし、おれはうれしいよ」
「……あんたのためじゃねえけどな」
「ハハハ。まあとにかく、あまり無理するなよ。じゃあな」
嬉しそうに言って、コミセンは職員室へ歩いていった。
なんか風に当たりたくなったから、おれはトイレじゃなくて屋上へ向かった。
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