インキュバスから見た子猫(エルゥ視点)

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「……琴子は、食欲は旺盛だねぇ」 「なに、悪かと?」  僕の言葉を聞いて琴子は頬を膨らませる。 「ううん、安心する。琴子、なにが食べたい?」 「んー」  彼女は少し思案する。なんでも言って欲しいな。可愛い子猫を元気にするためだったら、腕にたくさんよりをかけるよ。 「ビール……」 「それは、ご飯じゃないでしょ? じゃあお魚とお肉、どっちがいい?」  魚は鮭を冷凍で保存してるし、サバの水煮の缶詰もある。お肉は豚肉と鶏肉を小分けにしてこれも冷凍保存している。 「じゃあ、お魚で」 「わかった。じゃあ鮭の炊き込みご飯と、具だくさんのお味噌汁を作ろうか。あと一品欲しいなぁ。うん、冷奴も出そう」 「美味しそう!」  メニューを聞いた琴子が嬉しそうに笑う。それを見ていると、僕もなんだか嬉しくなる。 「美味しいと思うよ? さぁ、手を洗って、部屋着に着替えて。洗濯物もぜんぶ出して」 「わかった」  その場で無防備に服を脱ぎだす琴子を横目に見てから、僕は蹄の音を立てつつ台所へと向かう。警戒心剥き出しなくせに、妙なところで彼女は抜けている。そこがまた家猫っぽいなと思うのだ。  ……それだけ信用されてるのなら、嬉しいけれど。餌付け成功ってやつかな。 「さて」  冷凍庫を開けて凍った鮭を取り出す。  時間があれば冷蔵庫に移して解凍するのだけれど、今日はそんな時間がないのでレンジで解凍することにする。身が煮えないように気をつけないとな。  鮭を解凍している間に、えのきを荒く刻み、にんじんを丁寧に細かく刻む。そして解凍が済んだ鮭をレンジから取り出してから、バットに移して軽く酒を振った。  ……臭みを取るために生姜も入れるか。  そんなことを考えながら琴子の方をちらりと見ると、彼女は腰痛予防のストレッチをしている。デスクワークというものも、なかなか大変そうだ。  研いだ米を炊飯器にセットし、醤油、酒、みりんを混ぜ合わせたものを炊飯器に投入。さらにめんつゆをひとさじ。めんつゆは神器だよね、うん。  そして刻んだえのき、にんじん、生姜、鮭を入れてから、炊飯器のスイッチをオンにした。炊き込みご飯は、簡単で美味しくて素晴らしい。  ……さて、あとは味噌汁だけれど。  野菜だけでは物足りないから、豚肉も入れちゃうか。結局魚も肉も使うことになるけれど、そんな贅沢もいいだろう。  琴子には、たくさん栄養を取ってもらわないといけないからね。 「エルゥ、まだぁ?」  僕の可愛い子猫が、お腹が空いたとにゃあと鳴く。 「まだかかるから、大人しく待ってて!」  僕はそう返して、味噌汁……から転じて豚汁の材料と向き合った。
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