43人が本棚に入れています
本棚に追加
琴子の、新しい家族の形
「エルゥ、ありがとう」
家に帰って食事の準備をしているエルゥにお礼を言うと、彼は照れくさそうな顔をした。
「大したことはしてないよ?」
「ううん。エルゥが居てくれて良かった」
鍋を見ているエルゥの背中にぎゅっと抱きつく。温かくて、いい香りがして、なんだかすごく落ち着く。
「め、めずらしいね。琴子から触ってくるなんて。どうしたの?」
エルゥから動揺する声が上がる。そしておたまがカシャンと床に落ちた。
私が触れるのもめずらしいけれど、エルゥがここまで動揺するのもめずらしい。ふだんの私は、どれだけ塩対応なんだ。
「……エルゥ。私、家族が居なくなった」
ぽつりと漏らした言葉は、針のような鋭さで自身の心を貫いた。
祖父母も、母も、最初から『家族』ではなかったけれど。だけどそれでも『血縁』だった。
『天涯孤独』なんて言葉が、じわりと胸に広がっていく。
あの人たちが居ても、私は『一人』で寂しかった。だけど居なくなるのは、もっと寂しい。
「琴子」
エルゥは振り向いて、じっと私を見つめた。私もその穏やかな瞳を見つめ返す。
「琴子の理想の家族って、どんなもの?」
「え……」
唐突なエルゥの問いに、私はあっけに取られる。
だけど彼の顔が真剣だったので……私は想像してみた。
私が欲しかった、幸せな家族のイメージを。
最初のコメントを投稿しよう!