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「幸せ……」
「それはよかった」
思わず零れた言葉に、エルゥが嬉しそうに返す。そしてこちらに手を伸ばすと、私の頬に付いていた米粒を取って自分の口に運んだ。
それ、イケメンしかやっちゃいいけない仕草だからな! そしてエルゥはイケメンどころか絶世だ。つまり、無罪。
「そういうのは、しなくてよか」
「ん? そういうのって?」
エルゥは冷奴を口にしながら、きょとりとして首を傾げる。
……無意識なんだ。すごいな、インキュバス。
「……ま、いいけど」
なんだか頬が熱い気がする。私はそれをごまかすように、グラスに残ったビールをぐいっと一気に煽った。
「琴子、一気に飲むのはよくないよ?」
そう言うエルゥは、ちびちびとお上品にビールを飲んでいる。
「いーの!」
私はエルゥの手元にあるビールの缶を取って、自分のグラスに注ごうとした。……するとその手は、エルゥの綺麗な手でそっと包まれた。
「ゆっくり飲んで。琴子の体が心配だから」
青い大きな瞳で見つめられ、真剣な表情でそう言われる。
私はなぜか言葉に詰まり――ビールの缶からすごすごと手を離した。
「飲むなって、言ってるわけじゃないからね?」
「……わかってる。心配してくれたんやろ」
「だけどごめんね、うるさく言って」
大きな手が優しく頭を撫でる。ちらりと彼を見ると、その眉尻は悲しそうに下がっていた。
「……少しずつ飲むけん。ちょっとちょうだい」
「わかった」
エルゥはにこりと笑うと、グラスの半分にビールを注いでこちらに差し出す。
私はそれを受け取って、今度はちびちびと喉に流し込んだ。
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