井上君の事情1(井上視点)

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 嶺井さんの儚げな姿を思い浮かべて集中力が切れた瞬間、ゲームをする手元が狂ってゲームオーバーになってしまった。部屋も冷えた頃合いでちょうどよかったので、俺はソシャゲを閉じて台所へと向かう。 「面倒だけど。飯、作らないとな」  うんと一つ伸びをすると、冷蔵庫から冷やし中華の麺、きゅうり、ハム、トマト、卵を取り出す。錦糸卵なんて上等なものは作れないから、卵は茹で卵にしてしまおう。  一人暮らしも、大学の頃を含めたら六年以上だ。日々の簡単な料理くらいは問題なくできる。  お湯を沸かして卵を入れる。俺の好みは長めの茹で時間の、黄身までちゃんと固いものだ。きゅうりとハムを刻んで、トマトは大きめの輪切りにする。冷やし中華のタレは、スーパーで買った瓶のものがあるので作る必要はない。  もう一つの鍋にお湯を沸かして、麺をさっと茹で上げる。水にさらして笊で水気を切ってから皿に盛り、その上からきゅうり、ハム、トマトをそれなりに見えるように盛り付けた。茹で上がった卵を輪切りにして、冷やし中華のタレをかけて完成だ。  片手にビール、片手に冷やし中華を持って部屋に戻ると…… 「よー!」  褐色の肌に、ビキニスタイルの露出の多い服。はちきれんばかりの大きな胸。緑の髪に、赤い瞳。背中には大きな蝙蝠の羽根。そんな女が、ベッドの上に寝転んでいた。
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