60人が本棚に入れています
本棚に追加
片思い #2
「どうして諦めきれないかねえ」
誰が、とは言わない。大概諦めが悪いんだ。俺も、お前も。
「お前に言われたくねえよ」
夏目が洟をすする。その隣で俺は小さく苦く笑う。
自分の選んだ人が自分を選んでくれるというのは奇跡みたいなことだ。マシュマロの浮いたココアを見ながら、俺はそんなことを思った。
「泣くなよ」
「泣いてない」
「泣いてるだろ」
「泣いてねえって」
「俺のために泣くな」
どうして俺はあいつに選ばれないんだろう。どうして俺は、俺のために泣くこいつを選べないのだろう。
「抱き締めてやれねえから」
「当たり前だバカ」
夏目が赤くした目をごしごしとこすっている。そんなにこすったら明日腫れるのに、俺はその手を掴んで止めることもできない。
「諦めろよ、もう」
「こっちのセリフだっつーの」
「諦めな」
「うるせ、お前なんかどっか行っちまえ」
傷つくお前に謝ることもできない。誰かを想う人を想う辛さは身を持って知っている。
「どっか行けばいいか」
のろのろと夏目が顔を上げる。また一つ涙の粒が落ちた。すでに目蓋は腫れぼったい。
「行っちまえ」
また一つ。ぽろり。
「…やっぱり行かないで」
閉じた目の端から。ぽろりぽろり。
「間違え、ないから、傍にいさせて」
俺を思って泣くお前を、俺は抱き締めてやれない。苦しくて苦しくていとおしい。
「ばーか」
少し癖毛の髪を犬にするようにかき回す。それ以上の感情はこめてやれないけど、俺の精一杯が伝わるように。
「それこそ俺の台詞…」
俺の不誠実な言葉に夏目が泣いたままの顔で笑った。いつか俺もこいつも幸せになれるときがくるのだろうか。
せめてこいつには訪れるようにと俺は、願って、笑った。
最初のコメントを投稿しよう!