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「……みんな、助かった……」
ケガをしたのは麻里菜だけだった。
「マーニャ・ビス」
磁力を発生させる魔法で、麻里菜は肩の傷口に刺さったままの実弾を引き寄せて、取り除く。
「麻里菜、うちらやったよね! やっちゃったよね!」
美晴が興奮した声で、また麻里菜の手をにぎった。
「やっちゃったけど、やりとげた」
ドヤ顔をした麻里菜は、左手を美晴の額にくっつけた。
美晴はもとの、茶髪のポニーテールに明るい茶色の瞳に戻る。額の第三の目もタヌキの耳も尾のヘビも消えていた。
麻里菜も自分の額に手を当て、もとの姿に戻った。
「えっと……とりあえず病院行こうか」
ようやくドアの前に来た担任が、手招きをしている。
「大丈夫です。さっき弾も取りましたので」
「いやいやいや……そのケガで?」
麻里菜が大丈夫というには、もちろんわけがある。妖力を持つもの――妖怪は、ケガをしても治るのが驚異的に早いのだ。
すでに傷口の広い、肩と頭からの出血は止まっている。
「あのね、学校は生徒を預かっている立場なんだよ。学校にいる時や登下校中に何かあったら、学校はしっかり対処しなきゃいけないんだ。だから……とりあえずは病院で手当てをしてくれるかな?」
そう言われちゃ、そうか。
「……わかりました」
麻里菜は渋々うなずいた。
「他にケガをした人はいないか?」
クラスメイトは互いに見て聞き合う。
「大丈夫だよね?」
「うん、あの子が守ってくれたから」
「大丈夫です」
ここで、別の制服を着た警察の人が入ってきた。
「今からすぐに現場検証を行いますので、生徒のみなさんは一旦教室を出ていただけますか?」
「じゃあ、君はあそこのストレッチャーに」
教室を出てすぐ、ストレッチャーと救急隊の二人が陣取っていた。足を引きずることなく歩いてきた麻里菜に、救急隊の一人が声をかける。
「自分で乗れる?」
うなずいて、麻里菜は左手をついてストレッチャーに寝転がった。低くしてくれているので、ケガをした左肩にそれほど力を入れずに済んだ。
「動きます」の合図でストレッチャーが上がり、自分の頭を前にして動き出した。
「生徒用玄関は色々メディアの人たちが来ているので、裏の職員用玄関から出ます。ああ、外に出てから救急車に入るまではブルーシートで隠してくれます」
学校で生徒を人質にして男が立てこもってるなんて、そりゃあ来ちゃうよなぁ。
い、一ミリの隙間も開けるなよ……。
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