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事情聴取の直後、夕食が運ばれてきた。利き手の右腕が使えないので、スプーンとフォークがついていた。
「ほんとは左で食べるのも痛いけど……しょうがないよなぁ。……いただきます」
コン、コン
そっと、誰かが入ってきた。
「麻里菜〜来たよぉ〜」
その姿を見て、麻里菜は目を疑った。
「美晴……ちゃん?」
「麻里菜!」
今日出会ったばかりなのに、どうして。
「よかった……普通にご飯食べられてるんだね」
「まぁ、左肩ケガしてるから左で食べても痛いけど」
美晴は涙目で麻里菜の手を握ってきた。午後七時過ぎ。面会時間ギリギリである。
「美晴ちゃんはもうご飯食べたの?」
「軽く食べてきた。今日、何がなんでも麻里菜に会いたかったから……食事中ごめんね」
そう言ってほほ笑む美晴。
「あのさ、色々聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「……いいよ」
麻里菜は分かっていた。きっとあのことだろうと。
「……私、妖怪になっちゃったの?」
なっちゃった……か。
何か引っかかり、スプーンを置いた。
私は自分が妖怪であることを誇りに思ってるけど……。
「なっちゃった……そうかもね」
それだけ言って、またスプーンを持った。
「麻里菜のはすぐ分かるよ。キツネの妖怪だから……キュウビだよね? 私のはなに?」
「美晴ちゃんは……ヌエだと思う。タヌキの耳とヘビみたいな尻尾があったから」
「ヌエ?」
美晴はサッとスマホを取り出して調べた。
「『猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇』『一説には雷獣である』……こんな妖怪いたんだね」
「『こんな妖怪』が、美晴ちゃんなんだよ」
麻里菜はあえて言ってみた。
「でも、私はこれからどうしていけばいいの? 今までどおり生活できるの?」
「……それは……できなくはないけど……」
しばらく黙った麻里菜。しかし、美晴はその先の言葉を待っているようだった。
「美晴ちゃん、これから私が体験したことを言うけど、いいかな? 私が妖怪であることで起きたこと」
少しためらった美晴だったが、「分かった」と言って緊張した面持ちになった。
麻里菜は静かに話し始めた。
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