『うなぎさんとカメラさん』

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

『うなぎさんとカメラさん』

    《このお話は、すべて、フィクションです。》  あるひのこと、うなぎさんが沼の中をお散歩していたときです。  なんだか、見たことがない四角い小さな箱が、ふらふらと泳いできました。  それは、顔の真ん中に、でっかい目玉がひとつありましたが、沼の中では見かけない顔立ちです。  うなぎさんは、おそるおそる近づいて、そのお顔を、つんつん、としました。  でも、反応がありません。  『あらあ、こいつ、生きものかしら。』  と思いながらも、もう一回、つんつん、しました。  すると、たまたま、うまい具合に、スイッチが入ったのです。  『あらあ・・・ここは、どこだろう。ぼくは、どうしていたのかなあ。』  そいつが、まだ、寝たそうに、言いました。  うなぎさんが言いました。  『きみは、なんだい?』  『ぼくは、カメラだよ。』  『へぇ~。かめさんなんだ。』  『かめさんじゃない。《かめら》だよ。いろんなものを、そのままの姿で、写すんだ。ぼくは、小さな人間の男の子の友達だったんだ。いつも、いっしょにお散歩したんだけどね、ある日、よくわからないんだけど、急に何か起こったんだ。男の子は、たぶん、自動車にぶつかった。ぼくは、このお池に落っこちた。あとは、わからない。目が覚めたら、君がいた。』  『はあ・・・・・・かめさんは、きっと、寝ていたんだ。』  『かめさんじゃない。かめらさんだよ。うん、寝てたのは確かだ。ぼくは、時間が少し経つと、自動的に寝るからね。電池があまり減らないように。ぼくには、男の子と写した写真が、いっぱい詰まってるんだ。でも、ここでは、見せてあげられないなあ。』  『それって、どんなもの?』  『じゃあ、ぼくのうしろの、赤いボタンを押してみて。写真が出るから。』  『はあ、なんだろう。だいたい、写真とは、なにかしら。ええと、これかな。』  うなぎさんは、また、つんつん、しました。  すると、どうでしょう。  きれいな景色が、次々に現れたのです。  それに、人間の子供も、現れました。  『うわおお! これは不思議だ。だれが、描いたんだろう。すごい、すごい、あ、この小さなのが、その、人間の子供かい?』  『そうだよ。しんちゃんだ。心配だなあ。なんとか、おうちに、帰ってあげたいなあ。うなぎさん、記念撮影してあげるから、どうぞ、なんとか帰してくださいな。』  『そう言われても、ぼくは、地上はあるけないよ。困ったな、ああ、そうだ、沼に半分沈んでる、あの木の枝に引っ掛けてあげよう。でも、記念撮影って、なに?』  『君の姿を、記録するんだ。いいだろう? 長く、後世に残るよ。』  『おわあ。いいなあ、よし、じゃあ、頑張ってみよう。』         ************    それから、しばらくして、お母さんに連れられ男の子が、沼にやってきました。  『まあ、ここで、しんちゃんは、自動車にぶつかったんだよ。助かってよかったね。』    『かめらさんを、おとしちゃった。捜そうよ。』  男の子が言いました。  『沼に落としたら、見つからないよ、あきらめようね。』  『ううん・・・お友達だったんだ。ひとりだけの、だから、見つける。』  『そりゃあ、厳しいなあ。さがせる場所と、さがせない場所がある。』  『ううん・・・・絶対にある。』  男の子は、おかあさんを、引っ張って、沼の回りを回りました。  『まあ、気が済まなきゃ、仕方がないねぇ。』  おかあさんは、男の子が、まだ、少し足を引きずるような感じなので、心配でしたが、いっしょに、カメラをさがしました。  沼をぐるっと回って、森に囲まれて、かなり薄暗くなっている、向こう側まで行ったとき、男の子が叫びました。  『あったあ! あそこ!』  『なあんと、びっくし。』  それは、確かに、男の子が大切にしていた、カメラでした。  でも、それは、沼に生えた木の枝に、引っかかっていたのです。  おかあさんは、持って来た傘の柄を伸ばして、よっとこしょ! と言いながら、カメラを取りあげました。  『うわ~~~~~い。』  男の子は、大喜びです。  『まあ、なんで、ここに、引っかかるんだろう、不思議~~~~?』  『池の女神さまが、拾ってくれたんだよお。あの、お話の中みたいに。』  『《あなたたがおっことしたカメラは、この銀のカメラですか、金のカメラですかっ》て?まさかあ。でも、壊れてないかな。よいしょ、スイッチ、と。あら、動いた、さすが、耐水カメラとか、パパが言ってたな。おおお、写ってる、写ってる。ほら、しんちゃん、いっぱい写したね、あら、これは、なに? どわあ~~~~~。この、でっかいお顔は、うなぎさん・・・・。まさか、ここに、うなぎさんがいたのかあ。まあ、川につながってるからなあ、でも、びっくり。ほら、見てごらん。なんで、うなぎさんが、写ってるんだろう。』  男の子も、写真を見ました。  『ごわ~~~~。すほい。これ、うなぎさん?』  『ううん、間違いない。生きたうなぎさんだ。』  『ひえ~~~~~~。じゃあ、うなぎさんが、ひろってくれたんだあ。』  『まさかあ。でも、そうみたいね。これは、すごい。大発見かも。うなぎさんが、まさかねぇ。これは、パパに見せてあげたかったねぇ。』  『うん。帰ったら、お供えしようね。お母さん。』  『そうだね、さ、帰ろう。よかったね。』     その写真には、ちょっとほほ笑んでるような、うなぎさんのお顔が、どかんと、アップになって、写っていました。       ***************                           おしまい    📷表紙の画像は、『名前はまだない』さまに、描いていただきました。    2fa17743-308a-4e35-971d-0854d1b7f1a1                           ありがとうございます。    
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加