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『うなぎさんとカメラさん』
《このお話は、すべて、フィクションです。》
あるひのこと、うなぎさんが沼の中をお散歩していたときです。
なんだか、見たことがない四角い小さな箱が、ふらふらと泳いできました。
それは、顔の真ん中に、でっかい目玉がひとつありましたが、沼の中では見かけない顔立ちです。
うなぎさんは、おそるおそる近づいて、そのお顔を、つんつん、としました。
でも、反応がありません。
『あらあ、こいつ、生きものかしら。』
と思いながらも、もう一回、つんつん、しました。
すると、たまたま、うまい具合に、スイッチが入ったのです。
『あらあ・・・ここは、どこだろう。ぼくは、どうしていたのかなあ。』
そいつが、まだ、寝たそうに、言いました。
うなぎさんが言いました。
『きみは、なんだい?』
『ぼくは、カメラだよ。』
『へぇ~。かめさんなんだ。』
『かめさんじゃない。《かめら》だよ。いろんなものを、そのままの姿で、写すんだ。ぼくは、小さな人間の男の子の友達だったんだ。いつも、いっしょにお散歩したんだけどね、ある日、よくわからないんだけど、急に何か起こったんだ。男の子は、たぶん、自動車にぶつかった。ぼくは、このお池に落っこちた。あとは、わからない。目が覚めたら、君がいた。』
『はあ・・・・・・かめさんは、きっと、寝ていたんだ。』
『かめさんじゃない。かめらさんだよ。うん、寝てたのは確かだ。ぼくは、時間が少し経つと、自動的に寝るからね。電池があまり減らないように。ぼくには、男の子と写した写真が、いっぱい詰まってるんだ。でも、ここでは、見せてあげられないなあ。』
『それって、どんなもの?』
『じゃあ、ぼくのうしろの、赤いボタンを押してみて。写真が出るから。』
『はあ、なんだろう。だいたい、写真とは、なにかしら。ええと、これかな。』
うなぎさんは、また、つんつん、しました。
すると、どうでしょう。
きれいな景色が、次々に現れたのです。
それに、人間の子供も、現れました。
『うわおお! これは不思議だ。だれが、描いたんだろう。すごい、すごい、あ、この小さなのが、その、人間の子供かい?』
『そうだよ。しんちゃんだ。心配だなあ。なんとか、おうちに、帰ってあげたいなあ。うなぎさん、記念撮影してあげるから、どうぞ、なんとか帰してくださいな。』
『そう言われても、ぼくは、地上はあるけないよ。困ったな、ああ、そうだ、沼に半分沈んでる、あの木の枝に引っ掛けてあげよう。でも、記念撮影って、なに?』
『君の姿を、記録するんだ。いいだろう? 長く、後世に残るよ。』
『おわあ。いいなあ、よし、じゃあ、頑張ってみよう。』
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それから、しばらくして、お母さんに連れられ男の子が、沼にやってきました。
『まあ、ここで、しんちゃんは、自動車にぶつかったんだよ。助かってよかったね。』
『かめらさんを、おとしちゃった。捜そうよ。』
男の子が言いました。
『沼に落としたら、見つからないよ、あきらめようね。』
『ううん・・・お友達だったんだ。ひとりだけの、だから、見つける。』
『そりゃあ、厳しいなあ。さがせる場所と、さがせない場所がある。』
『ううん・・・・絶対にある。』
男の子は、おかあさんを、引っ張って、沼の回りを回りました。
『まあ、気が済まなきゃ、仕方がないねぇ。』
おかあさんは、男の子が、まだ、少し足を引きずるような感じなので、心配でしたが、いっしょに、カメラをさがしました。
沼をぐるっと回って、森に囲まれて、かなり薄暗くなっている、向こう側まで行ったとき、男の子が叫びました。
『あったあ! あそこ!』
『なあんと、びっくし。』
それは、確かに、男の子が大切にしていた、カメラでした。
でも、それは、沼に生えた木の枝に、引っかかっていたのです。
おかあさんは、持って来た傘の柄を伸ばして、よっとこしょ! と言いながら、カメラを取りあげました。
『うわ~~~~~い。』
男の子は、大喜びです。
『まあ、なんで、ここに、引っかかるんだろう、不思議~~~~?』
『池の女神さまが、拾ってくれたんだよお。あの、お話の中みたいに。』
『《あなたたがおっことしたカメラは、この銀のカメラですか、金のカメラですかっ》て?まさかあ。でも、壊れてないかな。よいしょ、スイッチ、と。あら、動いた、さすが、耐水カメラとか、パパが言ってたな。おおお、写ってる、写ってる。ほら、しんちゃん、いっぱい写したね、あら、これは、なに? どわあ~~~~~。この、でっかいお顔は、うなぎさん・・・・。まさか、ここに、うなぎさんがいたのかあ。まあ、川につながってるからなあ、でも、びっくり。ほら、見てごらん。なんで、うなぎさんが、写ってるんだろう。』
男の子も、写真を見ました。
『ごわ~~~~。すほい。これ、うなぎさん?』
『ううん、間違いない。生きたうなぎさんだ。』
『ひえ~~~~~~。じゃあ、うなぎさんが、ひろってくれたんだあ。』
『まさかあ。でも、そうみたいね。これは、すごい。大発見かも。うなぎさんが、まさかねぇ。これは、パパに見せてあげたかったねぇ。』
『うん。帰ったら、お供えしようね。お母さん。』
『そうだね、さ、帰ろう。よかったね。』
その写真には、ちょっとほほ笑んでるような、うなぎさんのお顔が、どかんと、アップになって、写っていました。
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おしまい
📷表紙の画像は、『名前はまだない』さまに、描いていただきました。
ありがとうございます。
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