序章 異色の出会い

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序章 異色の出会い

 時は江戸。天下泰平の世。紅葉舞う秋の終わりごろ、鍛冶屋町の外れに一軒の鍛冶屋がある。  その前に一人の男が姿を見せる。  屋根の上にはでんと、店の名が書かれた看板が乗っており、鍛冶屋にしては立派な造りの建物だった。入り口には支度中と書かれた看板が立てかけられている。じろりと一瞥すると、店の中へ。さまざまな種類の装飾品、数本の刀、柄や鍔、鞘が選べるようにか、たくさんの種類が置かれている。  その店の奥にはさらに部屋があり、そこに一人の男が座している。  視線がぶつかる。  部屋の壁に寄りかかり、片膝を立てて座っているのは、幻鷲霊斬(げんしゅうれいざん)。歳は二十八で、端正な顔立ちをしている。店を閉めているのにもかかわらず、訪れた客を不愉快そうに眺めている。そういう顔をしていても自然だと思えるような吊り上がった切れ長の目。目と同じ色の漆黒の長髪は後ろでひとつに括っている。紺の広袖を両肩に引っかけて、落ち着いた青の着物を着ている。引き締まった身体。腕には包帯が巻かれ、手に古傷が刻まれている。 「なんの用だ?」 「ちょっと尋ねたい。……幻鷲さんか?」  そう尋ねる男の声は低い。端正な顔立ちをしていて、中背で痩せ気味。腰には刀を一本帯びている。 「ああ。依頼か、それとも、客か?」 「どちらでもない」 「なんだと?」  霊斬は(いぶか)しげな顔をする。 「名乗るのが先だな。俺は月島(つきしま)。〝因縁(いんねん)引受人(ひきうけにん) 霊斬〟に会いにきた」 「座んな」  霊斬は怪しみながら、言った。
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