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なぜ仲の良い同僚の名前が思い出せないのだ、と戸惑っている間も、電話の向こうからそいつが、
「なあ……、なあ……、なあ……」
と壊れたロボットのように聞いてくる。
「ちょっと待ってくれよ」
そう言って、俺は空いていた手で頭をかきむしる。混乱する思考の中、あることを閃いた。
携帯電話を、通話中のまま耳から離す。電話帳にそいつの名前を登録してあったから、画面に名前が表示されていた。それを見て俺は、ああそうだ、この名前だ、と胸の内で呟きながら、また携帯電話を耳に寄せた。相変わらず同じ質問を繰り返している同僚に少し恐怖を覚えつつ、
「お前の名前、○○だよ」
と、はっきり教えてあげた。
するとそいつは、数秒ほど黙り込んだ後、
「やっぱり、”そっち”なんだ」
と言って電話を切った。
言葉の意味が理解できず、俺は電話をかけ直したけれど、何度かけても繋がらなかった。
それきり、そいつは蒸発してしまった。
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