ウチの、お爺

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「天使が見える」病院のベッドに横たわった爺が宙を見つめ 呟いた。瞬間りんごの皮を向いていた妻の手が止まり、瞬間 珈琲を啜っていた俺の口が止まり、瞬間スマホゲームに熱を 上げていた娘の指が止まった。3人は息を呑んで爺を見つめ た。爺の視線は、宙を見つめたまま。そのまま逝ってしまっ たのかと心配になり慌てて声を掛ける。 「おい!おい!。」俺の大きな声で我に戻った爺は、驚いた 表情で俺の顔を見返してきた。安堵感から自分の身体から強 張りが抜けてくのがよく分かった。 爺は、今年で92歳。体調を崩し最近は、入退院を繰り返し ていた。家族に負担を掛けてると気にしてるのか元気もない。 そんな爺を見舞いに訪れたら、このアリサマだ。天使が見え るって・・。漫画や、映画じゃあるまいし。いよいよ限界が 来たのか?心の中で覚悟した。 夕食は、病室で皆で食べた。爺は笑顔を見せ幸せそうだった。 見舞い時間ぎりぎりまで一緒に時間を過ごした。退室時間、 いつもは、見送る爺の顔は悲しげだったが今日は、とても晴 々としていた。それは違和感に近かったがさっきの覚悟を打 ち消す勢いさを兼ね備えていた。 その夜、俺は夢の中で爺に逢った。 「コレ、ワシのヒロイン。」爺は少年の様な笑顔で紹介した 女性は確かにヒロイン急に美しかった。妻子がいる俺でさえ 照れを感じる程だった。 「天使の様だろ」爺が女性の髪の毛を愛おしそうに愛でるの を目の当たりにして急に不安に駆られた。 「天使?」病室での出来事とリンクし不安が現実味を帯びた 瞬間に目を覚ました。夜中に枕元に立つってやつか?。急い で病院へ確認の電話を入れた。しかし俺の心配は的外れで、 爺に異変が、無い事を確認できた。所詮は夢か、俺は再度寝 床についた。 それから1週間後、爺は元気を取り戻し退院してきた。病院 を後にし家へ向う車の中で爺は、囁いた。 「天使が手を差し伸べてきたら、ワシは、きっとその手をと るだろう。」92にしてはファンタジーじみた事を口にする 爺さんだな位にしか感じず話を流した。一瞬夢の出来事が脳 裏に浮かんだが所詮は夢と割り切っていたので気にしなかっ た。 翌朝だった。爺は、寝た状態で、両腕を挙げた状態で亡くな っていた。それは天使の差し伸べられた手を掴む仕草そのも のだった。
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