第一章 私は私が大嫌い

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掃除前の時間。中三になってから半年ということもあり、掃除場所の分担が大幅に入れ替わった。浜崎先生が独断で決めたらしく、そのせいなのか教室がやけにざわざわしていた。 私も掃除の分担が書かれている黒板を見る。私の担当場所は保健室だ。それで一緒にやる人はというと、美華吏だった。 私はそのことに驚いたように目を見開く。でも何度瞬きしたって変わりはない。 私は美華吏とは関わりがあまりない。そもそも言葉を交わしたことすら昨日が初めてのことだし。おまけに初対面の上に不思議で正反対な人だからか、話しかけるのは気が重くなる。 私はため息を吐きながら掃除場所の保健室に行った。 どこかで聞いたことがある。ため息をつけば幸せが逃げていくことを。私はきっとため息をつかなくても一生分の幸せを逃しているような気がする。だからそんなのはどうでもいい。 保健室に着くと、案の定桜先生がいた。私達は失礼しますと言って中に入る。 「もしかしてここ、掃除する?じゃあ、私は邪魔にならないよう職員室行っとくさね。二人で適当にやっといて」 桜先生はそう言うと、保健室をそそくさと出ていってしまった。 いたら邪魔かどうかというと、いてくれた方が嬉しかった。なにしろ今は美華吏もいるし、二人きりというのも昨日、不思議なことを言われたからか、今では気まずい。でも今から桜先生を呼び戻すわけにもいかないし、二人きりで掃除をするしか道はなかった。 私は心の中でため息をつき、掃除道具を入れているロッカーを開け、ホウキを取り出した。そして美華吏に無言で渡す。すると、 「昨日の言葉は聞こえたかい?」 美華吏はいきなりそう言った。 私は確かにあの時、心を見透かされた。今まで誰にもばれたことのなかったことだからか、余計にどうしてかわからなくなる。 「聞こえたよ。でも…………どうして?」 「今は言いたくない、言えない」 そう言って美華吏は私が差し出したホウキを受け取り、掃除を始めた。 言いたくない、言えない。美華吏は不思議な雰囲気を感じさせるように、そうまわりくどく言ってきた。私はその様子にしばらくぽかーんと口をあんぐり開けていた。 「ほら、掃除するよ」 美華吏の声で私は我に返る。そしてホウキをもう一つとり、美華吏が掃いている所の反対側から床を掃いていった。 サッサッサッサッ。 ホウキで床を掃いている音は聞いていてとても心地よい。たとえ、この状況が気まずいって思っていてもだんだん心が安らいでいく。
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