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仕方ない
美華吏に不思議な言葉を言われてから一週間が経った。
あれから不思議な言葉を言われたことはない。最近は何も変化がない日常に違和感を覚えながらもつまらなく感じていた。
そのせいで授業の時もボーッとしているときがあり、まともに集中ができていない。
入りくんだ通学路を歩いていると、秋の涼しい風が吹いて私の頬を撫でる。
その途端、少しだけ肌寒さを感じた。
そろそろ冬服に衣替えしようかな。
私の学校は更衣期間が設定されていなく、自由に衣替えをしている。
そのせいなのか、冬でも半袖でいる人がいて風邪をひかないか心配になる。
私はふと腕につけている茶色い腕時計を見る。
これは中学校に入る時、母が入学祝いとして買ってくれたものだ。
それを見ればHRが始まる十分前だった。
急がなきゃ!
私は焦るように走り出す。
そういえば昨日はお気に入りの本に没頭していて夜更かしをしてしまい、そのせいで寝坊したんだった。
おまけに母にも怒られたから余計に機嫌が悪い。
走っていた途中でふと足がもつれそうになる。
でも遅刻すれば、その分先生や母にごちゃごちゃ言われるから遅れるわけにはいかない。
ここからだと学校までは七分ぐらいなのでギリギリ間に合うぐらいだろう。
私は交差点の前でふと足を止める。運の悪いことに信号が赤から青に変わったばかりだった。
私は信号が変わるまでの間、俯いて切らしていた息を整える。
そうしていると、バタバタと誰かが走っているような足音が聞こえた。
誰だろうと顔を上げると、焦っているような顔でセミロングの髪をなびかせながら走っている美華吏だった。
その姿を見ながら通学路、こっちだったんだなんてことを考える。
美華吏は私の前まできて足を止めた。そのまま息を切らしながら俯きながらこう言った。
「お前も遅刻?」
「うん。宇高君も?」
私は美華吏の名字を呼ぶ。名前を呼ぶのは初めてということもあるし、そもそも幼なじみ二人以外とは話すことがないからだ。
まだ初対面ということもあるし、一週間前には不思議な言葉を言われたものだからこの状況はきまずく感じる。
「ああ。ちょいと夜更かししちまったからな」
その声を聞いて私と同じだなと思う。
しばらくして信号が変わった。まだほんの少しだけ息切れしているが、ゆっくりしているわけにはいかない。
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