仕方ない

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その日の放課後。私は委員の仕事で図書室へ行った。 別にやりたくて入ったわけではないのだけれど、四月の委員決めの時に浜崎先生が独断で決めてしまったのでこうなった。 幸いなことに私は中一の頃に母から本を薦められて大好きになっていた。今ではざっと数えて五十冊くらい持っている。 図書室に入ると、所狭しと並んだ本棚を見て借りたい本を探している人。長机の椅子に座って本を読んだり勉強をしている人がいた。 その中にふと見覚えのある人物がいた。美華吏だ。 美華吏は真剣な顔をしながら熱心に勉強をしていた。 その顔を見て、勉強好きなのかななんてことを思う。 私は勉強は嫌いだ。つまらないし、未来の役に立つわけないからだ。 それなのに美華吏はまるでつまらないとか思ってなさそうに見える。 私は改めて不思議な人だと思った。 カウンターの方で貸し出しカードの管理をしていると、 「お願いします」 そう言って一人の男子が貸し出しカードを私に渡してくる。 私はそれを無言で受け取り、カードをまとめて保管している場所に入れた。 図書委員の仕事はこの他にも本の整頓や掃除がある。だから暇な時間が多い。私は本を読んで図書室を閉める時間を待つことにした。 そのあとも貸し出しカードを出しにカウンターに来た人は何人かいた。 読んでいた本に区切りがついてふと顔を上げると、図書室の中には美華吏と私しかいなかった。 時計はまだ四時半で完全下校の時間まではまだまだある。 私は気を取り直して本の続きを読もうとした。 すると、        「なぁ、清加。勉強教えてや?」 美華吏が私にねだるように言ってきた。 私は反射的に嫌だと思った。私は勉強が嫌いだ。そして得意でもない。ただいつも平均近くをさ迷っているだけ。そんな私が教えれるわけがない。 私は心の中でため息をつく。 「自分で頑張れば?」 私は棒読みにそう言ってしまったのをすぐさま後悔した。 美華吏はついさっきまで熱心に真剣で勉強をしていたのだ。ならばその行動、思いを踏みにじるわけにはいかない。 「俺、次のテストやばいんだよー。だから頼む!」 美華吏はまた私にねだるように言ってきた。 私はまたひとつ、心の中でため息をつく。
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