仕方ない

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「私、頼りないかもしれないよ」 私はそう言いながら美華吏の隣に座った。 「成績、どれぐらい?」 私は頼まれたのにそう聞き返してくるのはどうかと思ったが、気にせず受け流すように「平均近く」と答えた。 「俺さ、いまだに赤点ばかりなんだ。数学だけは。だからやばいんだよー」 数学だけがいまだに赤点ばかりとなれば、他の教科はどうなのだろうか。少し気になったけれど、それよりもこのまま美華吏が高校に入学できるのか心配になってきた。 「どこなの?」 「ここ」 そう言って数学の教科書を見せてくる。幸いなことにそこは私の得意分野である図形だった。 「ここはね……」 そう言って私は美華吏に数学を教え始めた。 人に勉強を教えるなんて初めてのことで最初は言葉選びや教え方に戸惑っていたけれど、時間が経っていくうちに少しは慣れてきた。 それにしても美華吏は真剣な眼差しで勉強に取り組んでいる。やはり勉強が好きなのだろうか。 「勉強、好きなの?」 「いや、嫌いだ」 美華吏はきっぱりとそう言った。 どうして嫌いなものにそんなに熱心になれるのだろうか。 そんな話、聞いたことがない。 私は訳がわからなくなった。 「真剣だなって思って」 「嫌いだけどさ、本当は好きとか嫌いとか関係ないと思うよ」 私は美華吏のその言葉を聞いて頭の中にクエスチョンマークが浮かんだ。 「どうして?」 「だってさ、親や先生、友達のためにやってるんだもん」 それは心底、すぐに納得できる理由だった。 誰かのためにか。私はそんなことも意識はもちろん、していない。だから好きなものが増えないのかもしれない。やりたいことが見つからないのかもしれない。 私はそう思いながらも、勉強をまた教え始めた。
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