仕方ない

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どのくらいの時間が経っただろうか。気づけば日は沈んでいて辺りは暗がりに満ちている。時計は五時半を差していた。 美華吏は数学では赤点ばかりらしいから当然のように呑み込みは予想外に遅く、時間がかかったけれど、そろそろ帰らなければ母が心配するだろう。 「今日はここまで」 「終わったー」 美華吏は嬉しそうにそう言ってのびをした。 「なぁ、清加。この前は変なこと言ってごめんな」 美華吏は唐突にそう言ってきた。 私は何のことだろうかと頭の中をぐるぐる探し回る。 そういえば、一週間前に自分をダメだと思うなとかいずれ倒れるとか言われたんだった。 きっと数学を教えるのにいつの間にか真剣になってたから忘れてたんだと思う。 それはともかく、ただやらされているだけのものに真剣になれたことが今まであっただろうか。 いや、なかったはずだ。めんどくさがりな私のことだから。 つまりこうなったのは無意識? それとも……。 どんな理由であれ、私の中ではあり得ないと言って当然のことだ。       「おーい、聞いてるか?」 美華吏の声で私は我に返る。 「聞いてるよ」 私は少しむきになったように言った。 「本当のことだかんな。この前言ったこと」 美華吏は私に忠告するようにそう言った。 そして教科書を鞄の中に片付け始める。 ごめんねと言っておいてそう忠告してくるのはどうかと思ったが、私はそれをスルーするようにこくりと頷いた。 そして図書室の戸締まりをし、美華吏と別れた。 それから職員室に鍵を返しに行き、私は帰路についた。 今日の朝ではこの前不思議な言葉を言ってきたから当然のように気まずい状況だった。 けれど今はそんなの気にしてない。きっと少し仲が深まったからだろう。 私は秋の涼しい風に髪をなびかせながら家に帰った。
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