第一章 私は私が大嫌い

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第一章 私は私が大嫌い

「さてさて受験生で忙しいみんな、今日のHRは自分の長所についてです」 不思議な彼が転校してきてから一週間経ったある日のHR。教卓に立っていた私達のクラス担任である浜崎先生がいかにも張り切っている様子で言った。 浜崎先生はピュアな教師だ。それはうざくて呆れるほど。 だから私は今日も教室の窓側の一番後ろの席で浜崎先生の声を黙殺するようにこっそりと本を読んでいた。 みんなが浜崎先生の話を真剣に聞いている中、私は長所と聞いて本を閉じた。それから頬杖をつき、窓枠に四角く切り取られた青い空を見ながら思う。 ああ、長所なんてどうせくだらないものなんだろう。 私には長所が何もない。学校に行ってただやらされているだけの勉強も運動もみんなの平均近く。友好関係はまあまあいいほう。 ただ家ではめんどくさがりな性格で、家事とか何もやらない人だから母に怒られてばかりだ。 私はいつも機嫌が悪い。端から見たらおかしい人かもしれないが、自業自得ってのはわかっているのに、直そうとか変わろうとか思ったことは一度もない。別にこんなことをやって未来の役に立つのだろうか。脳裏ではいつもそんなことを考えてしまう。 そもそも勉強勉強って中三になってからよく親からも先生からも聞く気がする。でもこんな私のことだからいつもめんどくさいと放っておいた。 だから私は今まで何も頑張ろうとはしなかった。もちろん努力もしたことない。テスト勉強だってやったこともない。だから仕方すらも知らない。 私は学校が大嫌いだ。そして何もない自分のことも。こんなに息苦しい場所が、ほかにあるのだろうか。本当はこんなところには来たくない。でもさぼれば友達に心配されるし、先生も親にもごちゃごちゃ言われそうだから仕方なく行ってる。 私はしばらくそのまま、頬杖をついて空を見ていた。すると、 「そこ!窓側の一番後ろのサボりマン!えーと名前……なんだっけ?」 浜崎先生に注意された。しかも目立つように。 浜崎先生は眉間にシワをよせて怒ったような顔をしながらクラスの名簿表を見ている。 実はこの先生、今年の秋からここに来始めたばかりだ。だから生徒の名前もあまり覚えてない。 おまけにいきなり、サボりマンと私のことを呼んでくるから教室にはどっと笑い声が広がる。 「糸湊清加(いとみなせいか)です」 私は心の中でため息をつきながら棒読みな口調で名乗った。 私は自分の名前も嫌いだ。あまりない名字に清らかに生きろって新しいものを色々加えろって母が勝手に私につけた名前。本当にくだらない。つまらない。 「名乗ってくれたのは助かった。でもサボりの罰として、今すぐ自分の長所をこの場で言いなさい」 浜崎先生はどうやら私の態度に激怒しているらしい。 そして私はというと、ついさっきからみんなからの視線を感じてしまい、頭の中がむしゃくしゃしている。 おかげで気分が悪くなってきた。
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